2015 辻牧場レポート
2015 辻牧場レポート
辻牧場
浦河町の辻牧場は今年、創業から105年目を迎える歴史ある牧場。昨今はアドマイヤデウス、アンビシャス、スズカデヴィアス、ハッピースプリントといった生産馬が重賞戦線で活躍し、また新たな実績を積み上げています。
ここでは、牧場と町議員の2つの顔を持つ辻芳明さん指導のもと、3人の高校生男子が参加しました。彼らに競馬に興味を持ったキッカケを聞くと、ディープインパクトやゴールドシップの走りに感銘を受けたり、家族が競馬好きだったりと、理由はそれぞれ。初めて牧場に身を投じ、競馬場では見られない繁殖牝馬・当歳馬や大きな厩舎・放牧地を前に目を輝かせていました。
体験内容は例年同様、放牧地の雑草抜きを中心として、馬たちの集牧を見たり、馬房掃除をしたりしました。
雑草抜きでは辻さんから雑草の見分け方と、道具の使い方の説明を受け、複数の放牧地に入り、参加者は黙々と作業にとりかかりました。近年、馬産地ではできるだけ長時間、馬を放牧する考えの牧場が増え、放牧地管理はますます重要なテーマとなっています。一見、地味で単調な仕事ではありますが、強い馬づくりには欠かせない仕事。参加者は中腰の姿勢をとりながら雑草を抜き集め、カラの飼料袋を一杯にしていきました。だんだん慣れてくると雑草を見つけることが早くなり、ベテランの辻さんの手に負けないようになっていきました。
体験4日目には丘の上にある放牧地で、雑草抜きにとりかかりました。ここは太平洋が見渡せるロケーションで、絶好の景色に参加者も見入っていました。作業を始めると、丘の下から母子の群れが駆け上がってきて、間近で草を食み始めました。「馬に少しでも栄養のある草を与えるために、放牧地の仕事も大事ですね」と、参加者は仕事の意味を理解したようです。ともに汗を流した辻さんは、「この放牧地でハッピースプリントも育ったわけだからね」と、自信と苦労をにじませながら、遠くから3人の頑張りを見つめていました。
集牧の時間になると、放牧を終えて厩舎に戻る母子を見学しました。厩舎のホワイトボードには、在厩馬リストが記載されており、参加者は興味深く眺めていました。蹄の音を響かせて母子が馬房へと入ってくると、馬たちは牧場の皆さんの指示通り歩みます。この時期の当歳馬はやんちゃ盛りですが、牧場の皆さんは巧みにリードし、参加者の前を淡々と通り過ぎていきました。
そばでは辻さんが「この馬は○○の子だよ」と、その馬の血統や特徴、思い出を語ってくれました。途中、片目を失った繁殖牝馬が出てきた時は、一瞬、言葉を失いましたが、その馬は強い生命力を放っていました。生き物を扱う現場の空気は、現場でしか得られません。体験会ならではの場面でした。また、同じ繁殖牝馬であっても、それぞれに個性があり、気性の激しい馬だったり、ガッチリした馬体の馬だったり。参加者は間近で観察してみて、その違いにも気付いたことでしょう。牧場の計らいで、集牧の最後に、重賞馬スプリングドリュー母子と記念写真を撮ることができました。
ほかにも、辻牧場生産・所有馬ということで、休養中のJpnI馬ハッピースプリントと会えたり、ファームステイでは辻さんから馬に関する様々な話を聞けたり、馬産地ならではの体験が続きました。参加者からは「種付けの話や放牧地の広さについて、勉強になった」、「地味な仕事であっても、甘く考えてはいけないと思いました」と、収穫は多かったようです。また、今回は3人とも夏の暑さが厳しい地域出身とあり、「こっちの夏は涼しいですね」と口を揃えていました。慣れない土地ながら、心地よく過ごせたようです。
体験会を終えて辻芳明さんの口からは、
「馬産地で働く人がなかなか増えず、外国人スタッフに頼らざるを得ない状況です。困っている牧場は大変多いので、是非、体験に来てくれた皆さんには、将来馬の世界にチャレンジして欲しいと思います。イタリアの馬産家フェデリコ・テシオの歴史から学べば、小規模の牧場からでも十分、名馬を生産できます。日高の牧場に就職しても、大いにチャンスがあります。3人とも本当によく体験してくれたし、できればこのまま、うちの牧場で受け入れたいぐらいです(笑)」
と、本音が飛び出していました。