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2025 見学会レポート(関東)

2025 見学会レポート(関東)

春の恒例イベント「牧場で働こう見学会(関東)」が3月8日(土)に開催された。当日は朝から曇天の空模様、気温も10℃以下で雪の予報も出るほどの寒さであった。

集合時間を前に、徐々に集まり始めた参加者たち。「牧場で働こう見学会」は、BOKUJOBの体験イベントの中で唯一、保護者なども参加可能なイベントであるため、例年親子で参加される方が多くいらっしゃるが、今年は姉弟や友人同士の参加者も見受けられた。その後、参加者25組34名(同伴の保護者含む)は集合時間の午前7:45に上野駅の上野公園口前に集合。2台のバスに乗車して、定刻に最初の目的地であるビッグレッドファーム鉾田トレーニングセンターに向けて出発した。

昨年までと同様に、バスの車内では同行するBOKUJOB事務局員の自己紹介、BOKUJOB 活動の概要説明などが行われた後、参加者からも自己紹介や参加動機の発表を行ったが、一様に今回の見学会参加の意気込みが感じられ、将来に目を向けた参加者の熱意を感じながら見学地へ向かった。

ビッグレッドファーム
鉾田トレーニングセンター

最初の見学先は、茨城県鉾田市のビッグレッドファーム鉾田トレーニングセンター(以下BRF鉾田)。出迎えてくれたのは附田場長とスタッフの皆様。全員がバスから降車後、附田場長より施設見学における諸注意の説明が行われた。

はじめに見学したのは屋根付き坂路馬場での調教見学。調教馬は「マイネルライゼン」「マイネルメモリー」「コスモブレイズ」「マイネルレクイルド」「マイネルモメンタム」の5頭。参加者の姿に集中力を欠く馬、設定よりも速い時計で難なく坂路を駆け上がる馬など、様子はそれぞれであったが、いずれも力強く疾走する競走馬の様子を目の当たりにした参加者が驚きの面持ちだったことが印象的だった。


附田場長のご厚意で、現役競走馬の坂路調教を見学。息遣いも聞こえました!

この坂路で行っているというインターバル調教は、競走馬の心肺機能を整えたり体調の立て直しにも効果があり、また各馬の状態に合わせたメニューに調整してトレーニングを行っているといった附田場長の説明に、参加者は耳を傾けていた。

施設見学では、ウォーキングマシンやトレッドミルなどの調教設備や厩舎を見学。ウォーキングマシンの見学の際は、クールダウンを行っていた馬がマシンから出てくる貴重な場面にも遭遇できた。続いてトレッドミルの見学では、電源を入れて実際に稼働している様子を見学。BRF鉾田での導入は20年ほど前とのことで、これは北海道新冠町にあるビッグレッドファームの本場よりも早く導入されたとのこと。導入した当初は、馬がトレッドミルに入らないなどの苦労があったそうで、現在でも使用時に調教馬がトレッドミルの外へ逃げ出すことも想定して、施設のシャッターを閉めてから使用するなどの危険防止策を実施しているとのことであった。


初めて間近で見るトレッドミルに興味津々

続いて、ご厚意で調教が終わったばかりの坂路馬場内に全員で入場させていただいた。坂路の路面は定期的に管理を行っているとのことで、例えば、雨などで砂が流れ出てしまった際は砂を足して路面のクッション性を維持するという調整を行っているという。勾配のおかげで調教馬への負荷を加えながら調教できることが強みだという。先のトレッドミルやウォーキングマシンといった設備は、人手不足解消の点では利点があるが、一方で設備だけでは競走馬は育たないという部分もある為、競走馬を育てるために大事になるのはやはり「人手」が必要という話も伺うことができた。

坂路見学の後は厩舎見学を経て、附田場長との質疑応答の時間に。はじめに附田場長からは、事前アンケートでの質問に対して回答していただいた。最初に「必要な経験・資格」についての質問に対しては、「牧場への就職にあたり特定の資格は必要が無い」との回答であったが、就職にあたっては「やる気がある人が一番いい」という率直なご意見も。BTCやJBBAなど牧場就業のための研修機関で学ぶことも大事だが、結局のところは本人のやる気が一番大切で、附田場長曰く「やる気がない人は研修機関を経ていても辞めてしまう」という説明もあった。また、続いて「入社するまでに必要な準備」という質問に対しては、「精神的な鍛練は就職後になるが、体力作りはあらかじめ行っておいてほしい」という話が。「馬に乗るための筋肉は、馬に乗らないと育たない」という、附田場長の経験を踏まえた深い話もあり、附田場長の、時には笑いを誘う話を参加者は聞き入っていた。また、「仕事をしているときのやりがいは何か?」というには、附田場長は「やはり調教している馬が(レースで)結果を出したときが一番嬉しい」と回答をしていた。競走馬にもそれぞれ個性があるが扱いが難しい馬に対してもしっかりと調教を行う中で、苦労を重ねて育てた馬が活躍している姿を見ると、何事にも代え難い感動があるとの事であった。最初の見学先でもあり、開始時には参加者達に緊張の様子が窺えたが、見学終了時には大きな声で挨拶する姿も見られた。

KSトレーニングセンター

BRF 鉾田からKSトレーニングセンターまでの移動の間に車中で昼食。車中ではBOKUJOB動画を視聴しながら、2か所目の見学先となるKSトレーニングセンターにほぼ定刻通りに到着した。そんな参加者を出迎えてくれたのは坂本代表と岡林マネージャー。

若干の雪を含んだ霙(みぞれ)が降り始めたものの、坂本代表の明るいご挨拶に参加者も元気よく挨拶を返していた。

はじめに見学を行ったのは、KSトレーニングセンターの厩舎。その後、坂本場長が「東洋一の大きさ」と豪語する堆肥置場、屋根付きウォーキングマシンや坂路を見学。また、調教を監視する監視台に上って調教コース全体も見学した。茨城県は北海道と比べると気候が安定していることがメリットであり、また、JRA美浦トレーニング・センターに近いという立地も強みであるそうだ。


調教コースを見学しながら、坂本代表からの説明を聞く参加者

坂路の前では坂本代表との質疑応答の時間に。はじめに上がったのは「どんな人が牧場の仕事に向いているか?」という質問に、坂本代表は「普通の人」と回答。牧場側としては、もちろん技術や経験がある方が就職することが望ましいものの、坂本代表のいう“普通”とは、一般的な社会人として「時間を守って真面目に業務を行う」とのこと。牧場の仕事というのは、早朝から勤務が始まることから、遅刻に関しては厳しい目も向けられてしまう可能性もあるという。これからの就職にあたって“普通”に仕事をすることがいかに重要かを説く坂本代表の眼差しは、出迎え時の姿とは打って変わって真剣なものになっていた。


坂本代表からの力強いメッセージを聞き入る参加者と保護者

次に上がった質問は「サラリーマンから牧場主になって感じたこと」。坂本代表が企業での勤務経験を経て牧場主経営者になった、というエピソードを受けての質問であった。坂本代表の回答は「随分と柔らかくはなってきたが、まだ村社会的な雰囲気もある」「就業者の女性の割合がまだ少ないこともあり、女性の就業支援の理解が低い」との回答。

最後の結びとして、坂本代表から参加者に対して「牧場への就業は一歩踏み出す勇気」という言葉があった。人手不足の業界ではあるが、興味を持った業界に就業すること、そして仕事に対してやる気を見せていくことが牧場就業の楽しさにつながるという。情報社会になった昨今、「挑戦」にはリスクを伴うことも多いが「そんなことは気にしないで前に踏み出せばいい」という坂本代表の弁。その力強い言葉に、参加者や同伴の保護者も一様に頷いていた。

降っていた小雨もいつの間にか上がり、参加者全員でバスに乗り込むと坂本代表と岡林マネージャーの見送りが。参加者全員で手を振り、次の見学先となる松風馬事センターに向かって出発した。

松風馬事センター

15分ほどの移動の後、松風馬事センターに到着。出迎えていただいたのは石内広報・人事部長と、BOKUJOB YouTubeチャンネルの牧場PR動画に登場いただいた山崎さん。はじめに向かったのは900mのダート周回コースで、広大なコースの迫力に参加者や保護者は魅了されている様子であった。このコースのラチは敢えて柔らかい素材にしているとのことで、馬の調教中にラチにぶつかった際など、馬・人間両方の怪我防止の為であるという。

続いて、厩舎に移動して質疑応答の時間に。ここからはBOKUJOBイベントの参加を経て松風馬事センターに就職した押野谷まいさんも参加。押野谷さんは2023年の「牧場で働こう見学会」「BOKUJOB2023 メインフェア」に参加し、その後松風馬事センターに就職した経緯を持つ。

そんなBOKUJOBの先輩である押野谷さんへは、「就職してから大変だったこと」という質問が。押野谷さんの回答は「一人暮らしでの自炊」であった。仕事の話ではなく、生活面における素朴な回答だった為か、参加者たちにも笑みがこぼれていた。また、他にも大変だったこととして、「大きい馬の世話」という回答も。また、「いつ松風馬事センターへの就職を決めたのか?」という質問には、「インターンシップ参加の際に就職を決めた」とのことで、女性スタッフが多かったこと、そして職場全体の雰囲気が良かったことが、松風馬事センターへ就職する決め手になったとのことであった。


BOKUJOBの先輩に教えていただきながらブラッシング体験

和やかな雰囲気の質疑応答も終わり、3班に分かれて「ブラッシング体験」「引き馬体験」「厩舎見学(餌やり体験)」を実施。馬と直に触れ合う機会ということもあり、参加者や保護者にとっても貴重な機会になった。また、引き馬体験では、押野谷さんと同じくBOKUJOBを通して松風馬事センターへ就職し、昨年の牧場で働こう見学会の質疑応答に参加頂いていた湯藤さんの姿もあった。

体験がひと段落し参加者は、再び厩舎前に集合。その場に現れたのは昨年に引き続き、藤沢和雄JRAアドバイザー(元調教師)。藤沢氏はJRA美浦トレーニング・センターに所属の調教師として1570勝をあげ、1993年から2009年までの間に12度のJRA賞最多勝利調教師を獲得した名伯楽。サプライズで現れた藤沢氏の姿に皆一様に大興奮の様子であった。


藤沢和雄JRAアドバイザーを囲んで集合写真。ありがとうございました!

藤沢氏への質疑応答が開始され、参加者からは様々な質問が飛んだ。「馬を育てるコツ」という質問には、藤沢氏の回答は「馬に話しかけること」ということであった。馬とは心から繋がることが大事だそうで、海外から来た馬でも言葉で繋がる努力をすることが大事であるという。続いて「調教師に求められる人材」という質問に対しては、「まず馬のことを第一に考えられる人」とのことを仰っていた。これはただ「馬を大事に育てる」ということではなく、馬の日々の変化やその馬の気性(個性)に合った調教、という点も含めた考えであるとのことで、藤沢氏の馬への愛情を垣間見ることができる回答であった。また、「外国人ジョッキーを競走馬に乗せようとしたキッカケ」という質問については、「外国人の乗せたときに馬に違う表情が見えた為、やってみようと思った」と回答していた。この“外国人ジョッキー”とは、日本国内レースのみならず、凱旋門賞をはじめとした海外の大レースを制覇した経験もあるオリビエ・ペリエ元騎手のことだそうで、とても貴重なお話だったこともあって、皆が食い入るように耳を傾けていた。質疑応答の時間はあっという間に過ぎ、最後は藤沢氏を囲んで記念撮影。

その後、松風馬事センターのスタッフの皆様に見送られて、上野駅に向かった。

松風馬事センター出発後に本降りとなった雨と交通渋滞の影響を受けた帰路となったが、車中では見学先などからご提供いただいたグッズの当選者を決定するじゃんけん大会を行うなど、参加者は和やかな雰囲気のまま、到着予定時間を10分ほど過ぎた18:40に上野駅に無事到着、一同は解散となった。

最後に、今回の見学会にご協力いただいた各牧場の皆様と藤沢JRAアドバイザーに、この場をお借りして厚く御礼を申し上げます。ありがとうございました。

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