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2024 見学会レポート(関東)

2024 見学会レポート(関東)

2023年に再開した春の恒例イベント、「牧場で働こう見学会(関東)」が3月9日(土)に開催された。昨年と同じく応募者多数のため、抽選で参加者を決定。午前7時45分の集合時刻前から集合場所の東京文化会館前に参加者が集まり、見学会に対する参加者の期待の高さが窺えた。集合後、参加者26組33名(同伴の保護者を含む)はバス2台に分乗して、最初の目的地であるビッグレッドファーム鉾田トレーニングセンターに向けて出発した。
バスの車内では同行するBOKUJOB事務局員の自己紹介、BOKUJOB 活動の概要説明などが行われた後、参加者からも自己紹介や参加動機の発表があった。
最初の牧場に到着するまでの間、『BOKUJOB YouTube チャンネル』の牧場紹介動画を車内にて上映。牧場就業を検討するうえで参考となる動画を熱心に視聴する参加者の姿が確認できた。

ビッグレッドファーム
鉾田トレーニングセンター

最初の見学先は、茨城県鉾田市のビッグレッドファーム鉾田トレーニングセンター(以下BRF鉾田)。2007年の開場以来ビッグレッドファーム(本場:北海道新冠町)の本州での調教拠点となっている育成場である。
附田場長をはじめとする牧場スタッフの皆様に出迎えていただくなか、最初に施設見学における諸注意の説明が行われたが、この説明の間にも坂路調教に向かう管理馬が参加者の近くを通り過ぎ、参加者は現役競走馬の大きさや迫力に圧倒されている様子であった。


屋根付き坂路馬場の感触や傾斜を確認する参加者

説明の後は、屋根付き坂路馬場での調教見学。いつもは調教終了後の時間帯ではあるが、ご厚意で今回の見学会のために時間調整していただいた。坂路馬場での調教では、ステイゴールドを父に持ち、2021年の新潟記念を制覇したマイネルファンロンをはじめ、現在BRF鉾田で調整中の競走馬たちが我々の目の前を猛然と駆け抜けていった。安全確保のため、坂路から10m程度離れた柵越しでの見学ではあったが、その距離でも聞こえる蹄音は日頃耳にすることがないもので、参加者は一様に驚いていた。BRF鉾田では中強度と高強度の調教を繰り返す「インターバル調教」と呼ばれるトレーニング方法を行っているが、高強度調教では1ハロン(200m)約16秒の速さとなるが、これは時速45㎞と自動車並みのスピードになるそうだ。

続いて2班に分かれて、1班は厩舎などの施設見学から、もう1班は附田場長との質疑応答からスタート。施設見学班は調教が終了した坂路馬場、ウォーキングマシンやトレッドミルなどの調教設備や厩舎を見学。ウォーキングマシンの見学の際「牡馬と牝馬とは分けてトレーニングを行う」との説明があったが、これは異性の競走馬が混在すると興奮してしまう馬に配慮した調教方法だそうだ。また、トレッドミルの見学では1番の利点として「馬に対する負荷が調整できること」といった説明があった。初めて見学する設備や管理馬への配慮に関心を持って、熱心にメモをとる参加者も数多く見られた。
さらにご厚意で調教終了後の坂路馬場に足を踏み入れる機会を設けていただき、その距離と勾配を体感できる貴重な機会となった。参加者は、馬場の砂を触ったり、駆け登ったりするなど坂路馬場を思い思いに体験していた。


附田場長との質疑応答

附田場長との質疑応答では、最初に「馬に触れる機会がない(未経験者)の場合、騎乗できるタイミングはいつになるのか」という質問があり、附田場長からは「上達具合によって検討しますが、やはり一定の時間と経験が必要」と回答。また「3年経っても半人前」というのがBRF鉾田の経験則とのことで、育成牧場で現役競走馬に騎乗することの大変さが分かる回答であった。別の参加者からは「どのような人材が育成牧場の就職に向いているか」との質問があり、附田場長は一言「やる気がある人」と回答された。附田場長のこれまでの経験から「やる気が見えない者はすぐに辞めてしまう」と感じているとのことで、馬の仕事への憧れだけではなく、社会人としての自覚、仕事に対する姿勢や取り組みが重要であることを、参加者は実感できたのではと感じた。

最初は緊張が見られた参加者も、施設見学や質疑応答を通じて、牧場就業についての疑問や気になる点も少しずつ解決し、和らいだ表情も見られた。気が付けばBRF 鉾田での見学終了時刻となり、参加者たちは附田場長はじめ牧場スタッフの皆様に大きな声で「ありがとうございました!」と挨拶して、BRF鉾田を後にした。

KSトレーニングセンター

BRF 鉾田からKSトレーニングセンターまでの移動の間に車中で昼食。昼食を終え、単独の参加者が座席を移動して同年代の参加者と会話するなど、和やかな光景も見られた。そうしたなか、バスは2か所目となるKSトレーニングセンターに無事到着。坂本代表の出迎えを受けた。


坂本代表からの説明を聞く参加者

坂本代表のご挨拶のあと、最初に見学したのはKSトレーニングセンターの厩舎。坂本代表の説明のなか、馬房や洗い場などの施設を見学し、馬房に敷く寝藁は一頭ごとの特徴を踏まえて敷き方にも工夫しているとの説明に、同行するBOKUJOBスタッフに「すごいですね」と声をかけてきた参加者もいた。「馬ごとの特徴を覚える」ことは、調教や世話を行うにあたり非常に重要であり、そのために馬と接する機会を多くするなど、KSトレーニングセンターでは牧場スタッフが馬に合わせた飼養管理を行っているとのことで、また、「馬の育成は、人間の育児と同じ」との説明には、参加者だけでなく保護者も深く頷いていた。


坂路コースを歩く参加者

次の見学施設は調教コース。昨年は、スケジュールの都合で見学することができなかったが、今年は見学だけでなく、実際に坂路馬場を歩くこともできた。同行した保護者やBOKUJOBスタッフには、中盤で呼吸や歩様が乱れる方もいたが、若い参加者たちは元気一杯に歩を進めていた。また、調教コースには、ゲート練習用の発馬機が設置されており、普段間近で見る機会が無い発馬機に触れたり、ゲート内での感覚を確認したりする参加者もいた。

施設見学後の質疑応答では、福利厚生や求められる適性などについて質問があったが、坂本代表からは率直で丁寧な回答があった。また、この業界全体としてジェンダーを考える時期になっているとの説明があった。過去には「女性は非力、牧場作業には向かない」という考え方も多かったが、KSトレーニングセンターでは仕事を性別で区別するのではなく、各人の適性に合ったいわゆるジェンダーフリーに基づいて、女性だけではなく牧場就業希望者が働きやすい環境の向上に向けて取り組んでいることが感じられた。
次の見学先に向かう時刻となり、大きく手を振りながら見送る坂本代表に対して、参加者たちも感謝の気持ちを込めて大きく手を振り返しながら、KSトレーニングセンターを出発した。

松風馬事センター

最後の見学牧場となる松風馬事センターに到着。ぽかぽか陽気のなかでのタイトなスケジュールでの見学会のため、保護者には疲れた様子の方もいたが、参加者たちは朝と変わらず元気一杯。

案内していただく石内広報・人事部長から、見学にあたっての注意事項の説明があり、最初に向かったのは900mのダートコース。コース内の角馬場では障害練習している牧場スタッフの姿も確認ができ、スタッフの技術力の高さを垣間見ることができた。


メインフェアを通して就業した若手スタッフの話を聞く参加者

その後、厩舎に移動し、質疑応答。石内部長のご配慮で、参加者にとってより身近な存在として登場したのは、BOKUJOBを活用して松風馬事センターに入社したという湯藤さん。湯藤さんは昨年6月の「BOKUJOB2023 メインフェア」に来場し、松風馬事センターとの面談を経て、8月に松風馬事センターでのインターンシップを経験し、その後、入社をしたとのことで、現在は日々牧場での仕事の面白さを実感しているとのことであった。参加者からの「何故ここに入社を決めたのですか」という質問に、湯藤さんは「馬が好きで以前から馬の仕事がしたいと思い、インターンシップを経験して、もっと牧場での仕事がしたいという思いが強くなりました」と回答。参加者は、BOKUJOBを通して牧場就業した湯藤さんの話を真剣な表情で聞き入っていた。
なお、松風馬事センターではインターンシップを受け入れているが、石内部長の話では「一度就業体験をして、本当に就業(入社)するか考えてほしい」という考えの下、インターンシップ制度を取り入れているとのことで、その説明に同伴の保護者の方々もしきりに頷いていた。


初めてのブラッシング体験

続いて3班に分かれて「ブラッシング体験」「引き馬体験」「厩舎見学(餌やり体験)」を実施。今回の見学会では、初めての馬と触れ合う機会となったが、参加者の多くは牧場で働く自分を想像しているかのような表情で馬と接していた。また馬に接した経験がない参加者は、最初は緊張の面持ちで体験していたが、次第に慣れ、笑顔が見られるようにもなった。

最後には、昨年に引き続きサプライズゲストとして藤沢和雄元調教師(現・JRAアドバイザー)が登場。藤沢元調教師はJRA美浦トレーニング・センターに所属され、調教師として1570勝をあげ、1995年から2009年までの間に、11度のJRA賞最多勝利調教師を獲得した名伯楽であるが、その登場に驚きと興奮を隠せない参加者が数多くいた。藤沢元調教師が最初に話し始めたのは「昔は女性の厩舎スタッフがいなかった」ということ。藤沢元調教師は「どの馬もデリケートではあるが、人間の手で丁寧に接すれば、どの馬もしっかりと成長する」とのことで、その点ではスタッフの性別は関係ないとのことであった。また、馬を成長させていくうえで、「馬にプレッシャーをかけないことが重要」と話された。また、「過去は馬の実力を上げるために、調教を重ねることが良い」とする風潮があったそうだが、藤沢元調教師は「昔から調教を重ねるよりも、馬の長所を伸ばして、大事に関わっていくことに重点を置いていた」と、自身のご経験を参加者に語りかけるように話していただいた。名伯楽の貴重な言葉に、参加者と保護者は静かに耳を傾けていた。
また、名馬ディープインパクトを父に持ち、藤沢元調教師の管理馬として桜花賞や安田記念制覇の実績を持つグランアレグリアが好きだという参加者から質問が。「馬をどのように成長させていったのですか」という質問には、藤沢元調教師は「とにかく丁寧に接すること」と答えていた。参加者にとっては夢のような時間となった藤沢元調教師との質疑応答もあっという間に終わり、最後に藤沢元調教師を中心に記念撮影。

その後、松風馬事センターのスタッフの皆様、そして藤沢元調教師に見送られて、上野駅に向かった。
帰路の車中では、BRF鉾田からご提供いただいたグッズの当選者を決定するじゃんけん大会を行ったり、6月1,2日にJRA東京競馬場で開催するメインフェア、例年、夏休み期間に開催している参加型イベントの案内を行ったりして、午後6時半過ぎにバスは上野駅に無事到着し、解散となった。

最後に、今回の見学会にご協力いただいた各牧場の皆様と藤沢元調教師に厚く御礼を申しあげます。ありがとうございました。

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