2017 見学会レポート(関西)
2017 見学会レポート(関西)
3月11日、例年ならば春の兆しがうかがえる時期でもあるのだが、今年は日本列島全体を覆う寒気団が、ここ関西にも居座っている。この1週間も連日季節が逆もどりしたような寒さ。行き先は滋賀県、信楽地区とあれば今日も雪模様ではないかと心配したが、幸いその隙間を縫うように気温も緩んだ。誰1人遅れることなく新大阪駅を定刻通り午前8時に出発し『牧場で働こう見学会in関西』がスタートした。
最初の目的地は滋賀県甲賀市のグリーンウッド・トレーニング。参加者は付き添いの保護者を入れ、総勢31名。参加者のうち女性が12名と、過去最高の女性の参加人数となった。
バスの移動時間を利用し、事務局の自己紹介、牧場での注意事項、イヤホンガイドの使用説明等があり、続いて参加者の自己紹介へと移った。大半が今年高校卒業予定だけあってか、最初はいささか緊張気味。今回は遠方からの参加者も多く、広島や福井、愛知、更には沖縄から来ましたという声には、皆驚かされていた。しかし「馬と関わる仕事への就活です。興味本位ではありません」とはっきりと目的意識を持って参加されるなど、事務局の方が緊張するほどであった。
車中ではBTCの紹介ビデオが上映され、食い入るように見つめている参加者が印象的であった。気がつけば最初の目的地グリーンウッド・トレーニングに到着だ。
グリーンウッドトレーニング
ここは育成、休養牧場で在厩するほとんどが現役競走馬。危険防止の意味から2班に分かれての見学となった。田中マネジャーが施設の概容を紹介。敷地の真ん中には橋があり、手前側には600mの坂路ウッドコース。その調教を見学するスタンド。橋の向こう側に厩舎があり、在厩馬は250頭ほどで橋の下には道路が走っている。これが国道で、「おそらく牧場の中に国道が走っているのは日本広しといえどこの牧場だけでしょう」と苦笑いされた。
坂路コースが見渡せるスタンドに移動し、調教を見学。毎年お世話になっており、田中マネジャーも楽しみにしておられたのか「遠慮しないで、話の途中でも何でも聞いてくださいよ。こんな質問と恥ずかしがらず、遠慮しないで」と口調もアットホーム。ご自身の方から参加者に話しかけられていた。
現役競走馬が坂路コースを駆け上がってくる。やはり迫力がある。真剣な参加者の目。すると「アッ!」と声が上がった。落馬だ。しかし騎乗者はすぐに起き上がり、馬も捕まった。突然のことなのでビックリ。「馬を調教するのは危険も伴います。決して安全とは言えません。騎乗技術の向上も必要となります」と田中マネジャーは表情を引き締めた。その為にグリーンウッド・トレーニングでは近郊の乗馬クラブと提携し、技術向上を目指しているとのこと。
橋を渡り、厩舎、ウォーキングマシン、診療所、馬運車などの見学後、「従業員が説明します。その方がナマの声が聞けるでしょう」と田中マネジャーの言葉を受けて、男性スタッフの山本さんと寺尾さん、女性スタッフの花城さんが紹介された。
昨年同様まず花城さんが1日のスケジュールなどを説明、花城さんは就業3年目で「もともとは動物園で働きたかったのです。でも、馬が可愛くてしかたなくここに来ました。でも馬の力は凄いです。とても人間ではかなわない、でもそれも楽しい」と語ったところ参加者から、「ケガは?」の質問に「あります。骨も折りました」と答え「でもその間、乗れなかったのが辛かった。でも皆、そうですよ。新人の人でも」には皆納得の顔。山本氏は、「私は33歳です。前は普通のサラリーマンで馬には縁がなかったです。でも馬は大好きでした。それが一番の理由かな。厩務員をという道も考えております」とのことで、ここで田中マネジャーが「インターシップ制度というのがあります。短期間一度牧場で働くという制度です。これを利用されるとより牧場の仕事というのがわかりますよ」とのこと。早速希望する参加者も現われた。肝心の給与面等についても「それは厩務員に較べれば労働面、給与面では差はありますが、それもここ数年、牧場でも一般企業の同年齢の待遇と較べてもそう変わらないまでになりつつあります」と説明された。ただ、今回、女性の参加者が多く、思わぬ問題?も浮き彫りにされた。“住まい”である。ここグリーンウッド・トレーニングは、『蹄』という従業員の独身寮がある。少し離れた所にありバスで移動したが、それは寮というよりむしろマンション。聞けば買ったのではなく、建てたというから驚きだ。プライベートな環境は保たれており、現在女性寮を1階に当てている。ところがそれが満室とのこと。早急に対策を考慮中も、これも女性の進出があってのこと。寮内にも入り見学し、グリーンウッド・トレーニングを後にした。
昼食
信楽焼の狸が所狭しと並べられているレストラン『たぬき』で昼食。さすが朝早くから間食もせず、しかも二十歳未満の若者とあれば、食欲旺盛。あっという間に完食。ところがいつもならすぐに席を立つところだが、今回はそうではない。事務局がそれぞれの席に加わり話をして、参加者もリラックスし盛り上がっていた。
信楽牧場
昼食後、信楽牧場に移動。車中、事務局が「信楽牧場では、乗馬の体験ができます。希望者はおられますか?手を挙げてください」と言うと、例年そう多くの手は挙がらない。が、今回は違った。全員といっていいほどの手が挙がった。「ウワッ、凄いですね」と嬉しい誤算。 ほどなく信楽牧場に到着するや、中内田社長がバスに乗り込んでこられ、バスの中が一気に熱っぽくなった。牧場全体を見渡せる高台に行くと、中内田社長による概容の説明。現在70頭の競走馬が在籍、乗馬用には4頭がいるとのこと。厩舎見学では、飼い葉を手にされ「糖蜜が入っていますから高カロリーで甘いですよ。どうぞ口にしてくさい」参加者はその甘さに驚かされていた。
さてお楽しみの乗馬体験。順番が回ってくるのが待ち遠しい、もっと長く乗っていたい、とそれこそ行列のできる乗馬体験であった。 集合写真を撮った後は食堂での歓談会。質疑応答を含む活発なJBBAやBTCが行う研修があります。騎乗技術は勿論ですが、競走馬の知識、それと人間としての礼儀をしっかりと教えてくれます。これが大事です。ここでも、どこでもそうですが、これが欠けていると育成場に来ても成功しません。うちから厩務員になった者は約70名いますが、皆それをわきまえた者たちです」と基本を言われ「では、うちで働いている者から説明します。今回は、ホースマネジメントサービスの仕事もしている糸数君、そして若手の田淵君が来ております。この2人に説明してもらいます」と紹介された。
糸数氏は「自分はBTCの31期生です。社長の言われたこと以外の実践的なことを言いますと、やはり体力が必要だということです。腹筋運動などは常にしておく必要がありますね。それと体幹トレーニング、インナーマッスル、体の奥から鍛える、それらも必要になりますね」「女性は不利ですか?」の声に、社長が「確かに最初は不利でしょう。でも、やる気ですね。現実に女性の騎手もおりますでしょう」との返答。田淵氏は「先に社長が言われたように礼儀。それと謙虚さですね。当たり前のことに思われると思いますが、これが肝心です。また、しっかりした研修体制が整ったJBBAやBTCを活用するのはいいことだと思います。一から十までをキチンと教えてくれますから」。また、インターンシップ制度を利用するのも賢明との説明。「それこそ3日から1、2週間と現実に働いて牧場の仕事を実体験されるのも選択肢のひとつです」。更に「ここで働いて厩務員になる。そうなると牧場としては、せっかく一人前になったのに…、という思いはありませんか」との質問が出た。「ハイ、それは大半がそうなられては困りますが、でもなれないようではこれも困るのです。良い具合に循環すればいいのです。なれないということは技術、人間面が足りないということでもありますから」との返答であった。 信楽牧場の魅力は、社長の人柄である。熱意が、一言一言に溢れている。それが競走馬の育成にも表れている。その熱気が覚めやらぬままに、最後の見学地、ノーザンファーム信楽に移動した。
ノーザンファームしがらき
今更、何の説明も要らないだろう。日本の、いや、世界の競馬をリードしているノーザンファーム関西地区の育成拠点である。設備面の充実度は、それこそ栗東トレーニングセンターと大差がない。1周900mの周回コース、800mの坂路、350馬房近くあり、ウォーキングマシンはひと厩舎に1台、トレッドミルは2厩舎に1台設置されている。
「設備は負けませんが、寒さも負けませんよ。ここは信楽、関西のチベットです」と責任者は笑いながらコメントされたが、これも余裕の表れか。もう1ヵ月ほど前ならば、サトノダイヤモンドなどG1戦線を賑わせている関西馬が大挙して在厩していたとか。厩舎内の馬房のプレートには父ディープインパクト、父キングカメハメハがずらり。「アッ、この馬知ってる」などお馴染みの馬ばかり。参加者、保護者も、まるで1人の競馬ファン。責任者も「そうそう寒いのと、あと雷ですね。このように高圧電線、アンテナがあるので、そこに落ちます。凄いを通り越して、それこそミサイルが落ちたのかと思うぐらいです。馬?そう驚かなくなりました」とのことで、これも競走に強い一因か。
これで全行程を終え、帰路に就いた。最後に、「もっと聞きたい、知りたい方は、関東地区は安田記念の6月4日、関西地区は宝塚記念の6月25日、その前日と当日、それぞれの競馬場で『牧場で働こう』のイベントを開催します。今回の参加者、それ以外の方々もぜひお越しいただきたい。」と事務局から挨拶があった。