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2017 見学会レポート(関東)

2017 見学会レポート(関東)

BOKUJOB春のおなじみイベントとなった「牧場で働こう見学会in関東」が、3月4日に開催された。参加いただいたのは東日本地区の中学生、高校生、大学生、そして保護者を合わせて19組の方々。「馬に携わる仕事がしたい」「馬術部に入っているので経験を活かしたい」「将来はJRAの調教師になりたい」など、各々の認識や目標は様々ながら牧場での仕事に興味を持っているのは同じ。初めて訪れる牧場で、どんな人が働き、どんな作業をしているのかを実際に見ていただくべく、ツアーがスタートした。
朝8時に東京駅近くのバス専用駐車場から貸し切りバスで出発した一行が最初に目指したのは、茨城県鉾田市にあるビッグレッドファーム鉾田トレーニングセンター。常磐自動車道谷田部東パーキングエリアでの休憩を挟んで2時間半ほどの車中では、まず事務局からの見学会の趣旨・注意事項が伝えられた後、参加者の簡単な自己紹介タイムが設けられた。
自己紹介を聞いていて感じさせられたのは、例年に比べ「学校で乗馬部に入っている」「近くの乗馬クラブへ通っている」など乗馬経験のある参加者が多かったことだ。もちろん事務局でこういった経験者を選抜したわけではないのだが、乗馬経験のある学生たちがそのまま馬に携わる仕事に興味を持ってもらえること自体は頼もしいことだ。もっとも乗馬経験がなくても牧場への就職は可能であり、車内では乗馬訓練等のプログラムを備えた日本軽種馬協会(JBBA)の研修案内ビデオも放映された。

ビッグレッドファーム
鉾田トレーニングセンター


馬洗い場の様子

10時半前に到着したビッグレッドファーム鉾田トレーニングセンターは、「マイネル」「コスモ」などの冠馬名が付いた馬たちで知られる大手生産者グループ・ビッグレッドファーム(北海道新冠町)の本州における調教拠点となる牧場である。ここでは次走までに間隔のある現役馬、またデビューを前にした馬たちがトレーニングされており、バスから降りた一行は場長の附田さんの案内で屋内坂路馬場での調教見学へと向かった。
坂路はその名のとおり上り坂になっている調教コースで、長さ600m、高低差23m。平坦なコースに比べスピードが出ないものの短い距離でしっかりと負荷をかけることができる。また間隔をあけて3~4本走ることにより、人間の陸上競技でも行われるインターバルトレーニングが可能となる。同牧場では通常1頭につき1日3~4本調教され、1人のスタッフが4~6頭を担当している。


坂路調教の見学

今回我々が見学したのは朝から数班に分けて行われる調教の最後の組。集中してまっすぐ坂を上がってくる馬、経験が浅いからか見学している我々を気にしながら走っている馬と走り方も様々。調教メニューは馬の体調や目標によって1頭1頭異なっており、1週間後に美浦トレセンへ入厩する予定というオープン馬は他馬よりかなり速いタイムで坂を駆け上がっていった。


ウォーキングマシンによる運動

調教見学を終え次に向かったのは、ウォーキングマシン。この装置では1機につき6頭が収容でき、人手をかけずに馬を運動させることができる。同牧場では坂路調教を終えた馬を1日60分程度歩かせており、その間にスタッフは別の馬の調教や手入れを行う。人的資源が限られる牧場においてウォーキングマシンはなくてはならない存在といえ、同牧場には5基設置されている。

ウォーキングマシンで運動を始めた馬たちを見届けると、今度は場長の案内で調教が終わった坂路馬場の中へ入り実際に歩かせてもらうことに。坂路の砂は深く、なおかつ傾斜もあり前へ進むのは容易ではない。そのぶん馬に対しては負荷をかけられるということだった。


坂路コース内見学

坂路を上りきると、厩舎の内部を見学させてもらった。こちらには78の馬房があり、やや広めの馬房とそのまま出入りできるサンシャインパドックが一体となっている。人間でいえばバルコニー付きの個室のような造りになっており、1日のほとんどをここで過ごす馬たちにとってはよりリラックスができるようになっている。なお牧場においては“寝わら上げ”と呼ばれる馬房清掃が基本作業となるのだが、同牧場では効率性を考え馬房清掃は専門のパート社員を雇いスタッフは馬の調教や手入れに専念させているそうだ。


ゲストハウスでの質疑応答

一通り設備を見学した我々はゲストハウスへと移動し、入社1年目のスタッフ2名を交えて牧場就職に関する質疑応答の時間が設けられた。参加者からは、「乗馬経験があったほうがいいのか」「女性でも務まる仕事か」「就職にあたって運転免許は必要か」といったものから待遇面に関してまで様々な質問が寄せられた。もちろんここでの回答は大手である同牧場としてのものだったが、乗馬経験に関しては「あるに越したことはないが、経験がなくても入社してからの研修で大丈夫」とのことだった。実際、新人スタッフ2名のうち1名は高校卒業後にBTC(軽種馬育成調教センター)での育成調教技術者研修を受講していたのだが、もう1名は大学卒業後に乗馬経験がないままでの入社であった。場長からは「経験よりもヤル気が大事」とのアドバイスがあった。また女性の勤務に関しては、同社の北海道の牧場には複数名が勤務しており問題はないが、体力のいる仕事なので普段から運動をしておいたほうがいいとのことだった。
最後はご厚意により同牧場グッズや重賞勝利馬の蹄鉄プレゼントなどのサプライズもあり、見学を終了した。

KSトレーニングセンター


調教スタンドから全景を見渡す

ビッグレッドファーム鉾田を後にした我々は時間の関係から車中で昼食を取り、霞ヶ浦の対岸に位置する茨城県牛久市のKSトレーニングセンターへと向かった。同牧場はJRAの美浦トレーニングセンターからほど近く1周800mのダートトラックコースと630mの坂路コース、ほかにトレーニング用の馬場などを擁し、複数の育成牧場が共同で利用している施設である。


ウッドチップ調教施設の見学

こちらでは育成牧場のKSトレーニングセンターを経営する坂本さんの案内で、調教設備を見学した。午後とあってこの日の調教は終了していたが、まず2組に分かれてダートコースを見渡せる調教台へと登らせていただき、調教内容やコースについて説明を受けた。つぎに坂路コースのスタート地点へと移動。同じ坂路でもこちらではクッションの効いたウッドチップが敷かれており、参加者もその感触を確かめた。坂本さんによるとJRAの調教師から育成牧場に対してのリクエストは多様であり、相談しながらそれぞれの馬に対する調教メニューを決めていくという。


整理整頓された飼料

調教コースから厩舎へ移動し、馬に与えるカイバ(飼料)について説明を受けた。この牧場では馬ごとに10数種類の飼料をブレンドしたオリジナルのカイバが作られている。


フィードマンについての説明

イメージとしては患者ごとにメニューが異なる病院の入院食のようなものだが、坂本さんからは馬の栄養士ともいうべき“フィードマン”(カイバを管理するスタッフ)についての説明があった。与えた飼料の食べ残しの量から馬の健康状態をはかることもでき、近年その役割が重要視されるようになっているという。またフィードマンをはじめ厩舎では作業の細分化が進んでおり、坂本さんからは「馬に乗ったり世話をしたりするのとは別に、専門的な知識をつけることも必要」とのアドバイスがあった。


手入れ中の入厩馬

質疑応答の時間では女性スタッフについての質問があったが、「力仕事という意味では大変だが、男性では見過ごしがちな馬の細かい変化に気付ける点ではむしろ女性の方が向いている仕事かもしれない」との回答をいただいた。またどんな仕事でもヤル気と継続することが大事で、馬の仕事も同じとのことだった。

松風馬事センター


ダートコースの様子

KSトレーニングセンターを出発し、この日最後の訪問地である松風馬事センターへはバスで15分ほどの行程。美浦トレーニングセンターと同じ美浦村に所在するこの牧場は1周900mのダートコースと400mの坂路コースを有し、立地の良さからその日にレースを終えたばかりの馬が移動してくることもあるという。


ウォーキングマシンによる運動を終えた入厩馬

こちらでは根本さんの案内で調教コースを案内していただいた。同牧場の特色としては現地でも騎乗経験が豊富だった外国人スタッフが20名程度在籍しているということで、すれ違うスタッフの方々からの「こんにちは!」との明るい挨拶が印象に残った。もちろん同牧場だけでなくこの日訪れた3牧場ともにいえることだが、たくさんの人が働く牧場での基本は挨拶にあるようだ。


コース内にて調教メニューの説明

根本さんからは勤務体系や、同牧場が行っているインターン制度についての説明をいただいた。JRAのトレーニングセンター近郊の育成牧場では在厩頭数が増える冬が忙しく、頭数が減る夏は作業が少なくなる繁閑差が大きいこと。またできるだけ涼しい時間帯に馬の調教を行うために夏と冬では朝の始動時間が異なることなど、牧場ならではの勤務事情を知ることができた。またインターンは大学生、高校生を対象にひと夏に2~3名を受け入れており、1週間から10日程度の期間で乗馬経験は問わないとのことだ。
なお就職にあたっても入社後に乗馬指導を行うとあって乗馬経験は必要なく、それよりもヤル気や馬が好きといった本人の気持ちが大切とのアドバイスをいただいた。


人馬の安全に配慮されたフランス製の馬場柵

この日伺った牧場は規模や経営形態も異なっていたが、どの牧場でも求められたのは“ヤル気”。事務局からは、「今回の見学会だけでなく、夏シーズンに東西の競馬場で開催のBOKUJOBフェアや北海道での体験会など、牧場での仕事に触れる機会を活かしていただければ幸いです」とのコメントがあった。

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