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2015 見学会レポート(関東)

2015 見学会レポート(関東)

恒例となった「牧場で働こう 見学会」関東編が、今年も3月7日(土)に開催された。
BOKUJOBサイトはもとよりテレビでの告知などで当見学会を知った方も多く、今回は応募者多数とあって抽選で参加者を決定させていただくこととなった。参加いただいたのは、北海道から関東地区までの14歳から21歳までの若者とその保護者及び引率者15組25名。あいにくの小雨模様となったものの朝7時45分に東京駅近く駐車場に集合し、貸し切りバスに乗り込み見学会がスタートした。
バスの中では事務局から見学会の趣旨・注意事項などが伝えられたのち、参加者の簡単な自己紹介タイムも設けられた。この時点での参加者たちの意識は様々。
「馬に係わる仕事に興味がある」
「生き物と触れ合うのが好き」
「競馬にはどんな仕事があるのか知りたい」
「厩務員になりたい」
「強い馬を作りたい」
もっとも牧場での仕事に興味を持っていることは間違いなく、遠方、また早朝からの行程にも関わらず車中で放映された日本軽種馬協会と軽種馬育成調教センターの研修案内ビデオを興味深く視聴していた方が多かった。

ビッグレッドファーム 鉾田トレーニングセンター

最初の目的地である茨城県鉾田市のビッグレッドファーム鉾田トレーニングセンターに到着。こちらは「マイネル」「コスモ」などの冠馬で知られる馬たちの生産・育成を行うビッグレッドファームの本州における調教拠点となる牧場である。

バス移動中いったん上がったように思えた雨が再び降り出しており、ここでは全員レインコートを着用しての見学となった。

まずは場長の附田さんの案内で、全長600mの屋内坂路馬場の見学へ。坂路は上り坂になっている調教コースであり、平坦コースに比べスピードが出ないもののしっかりと負荷をかけることができる。また短めの距離を間隔を開けて3~4本走ることによりインターバルトレーニングが可能となる。ここでは早朝から数組に分けて行われていたこの日の調教の、ちょうど最後の組を見学することができた。この組では重賞競走で上位に来たこともあるオープン馬と、まだデビューしていない3歳馬の調教を見ることができたのだが、「走っているフォームが全然違うでしょ」との解説に、改めて馬の走り方を確認する参加者も見受けられた。

続いてウォーキングマシーンの見学へ。ウォーキングマシーンに馬を入れている間に別の馬の調教や手入れをしたり、馬房で寝藁上げとよばれる整備・清掃をするなど有効に活用されている。ウォーキングマシーンが稼働しているところを間近で見て、思った以上のスピードで動いていることに驚いている参加者もいた。 その後は厩舎に移動して、設備や馬具などの説明を受ける。こちらには26馬房の厩舎が3棟あり、常時60~70頭の現役競走馬が暮らしている。調教中で空いている馬房に入れさせてもらったり、調教を終え厩舎でリラックスしている馬を間近で見ることもできた。

最後は同牧場のゲストハウスに移動して、もともと競馬ファンで社会人になってからこの世界に飛び込んできたという場長と、若手スタッフを交えての質疑応答が行われた。

附田場長からは「牧場の仕事は特別な仕事だけど、必要なことは社会一般の仕事と同じ。ただしキツくて危険な面もある仕事なので、何となくという気持ちでは無理。逆にいうとヤル気というか気持ち、好きな仕事をやっていることに対するモチベーション頼りの面もある」とのお話をいただいた。参加者からの「この世界に就職するに当たって乗馬経験は必要か?」との質問には、「無くても牧場で研修があるので大丈夫。中途半端に変なクセがついているほうが大変かも」との回答があった。また場長の「学歴は不要だが、無駄にはならない」との言葉が印象的であった。


調教に向かう馬の準備の様子を見学


迫力満点の調教の様子を見学


ウォーキングマシンを見学


馬房内の見学


ゲストハウスでの質疑応答

KSトレーニングセンター

車中で昼食を取りながら、霞ヶ浦の対岸となる茨城県牛久市のKSトレーニングセンターへと向かった。同牧場へは1時間半ほどで到着し、その頃にはすっかり雨も上がっていた。さてこちらの牧場はJRAの美浦トレーニングセンターからも近く1周800mのダートトラックコースと坂路コース、ほかにトレーニング用の各馬場などを擁する育成施設。現在は核となる坂本企画のほか、育成事業者数社が利用している牧場だ。

案内していただいたのは坂本さん。社長であるお父様のほか、ちょうど馬場周りの手入れを行っていたお母様にも加わっていただくことになった。

はじめに参加者は2組に分かれ、ダートコース全体を見渡せる調教見学台へと登り牧場設備の説明を受ける。さらに全長800mの坂路コースへと移動してからは、午前中までの雨によりコース内に入ってその感触を確かめることこそできなかったが、自然の傾斜に加え地面を掘り下げて勾配を作るなどの工夫が見受けられた。調教設備を見学した後は厩舎へと向かったのだが、ここでハプニングが起こる。

この見学会では大声で馬を驚かさないように、案内していただく方に小型マイクを付けてもらい参加者は専用のイヤホンで説明を聞くという方法をとっていた。そのタイミングで坂本さんの携帯電話が鳴り、坂本さんが電話で話す内容がイヤホンを通じて参加者全員に丸聞こえとなったのである。

もっとも説明中の坂本さんが電話に出たのにはわけがあった。実は坂本さんに電話をかけてきたのは、この日の中山新馬戦を勝ったハッピーサークル(牝3)のオーナーさん。なんと同馬はこのKSトレーニングセンターの育成調教馬であり、デビュー戦勝ちのお礼として坂本さんへ連絡してきたのである。

電話後、坂本さんは「この仕事をやっていてよかったと思うのは、担当した馬が走った時」と話してくれたのだが、この電話はまさにその瞬間。偶然とはいえ、参加者たちは牧場関係者が一番喜ぶシチュエーションを目のあたりにすることができたのである。

その後は厩舎に移動し、飼料(馬に与える餌)について説明を受ける。こちらでは馬ごとに10数種類の飼料をブレンドしたオリジナルの飼料を与えているそうだ。近年はJRAの厩舎でも飼料の調合を行うフィードマンの役割が重要視されており、これからこの世界を目指す人には、そういった知識も必要なってくるとの話もあった。また厩舎内では毎日敷料兼餌ともなる寝藁量の変化をチェックしており、そこから各馬の健康状態をチェックしているとの説明を受けた。各育成牧場によってさまざまな特徴があるのだが、この牧場では飼料管理にも力を入れていることが伺えた。


ダートコース全体を見渡せる調教見学台から施設を見学


坂路コースを見学


馬の手入れ作業を見学


飼料について説明していただく

松風馬事センター

バスに乗ること約15分。最後の訪問地、茨城県美浦村の松風馬事センターへ到着。ちょうど到着した15時35分は、この日の阪神競馬のメインレース・桜花賞トライアルのチューリップ賞の発走時刻とあって、バス車内でテレビ中継を視聴してから牧場に降り立った。

敷地面積11万5000平米を誇り、800mのダート周回コースと400mの坂路コースを有する同牧場を案内していただいたのは採用担当スタッフでもある根本さん。同牧場にはフィリピンやベトナム出身の外国人スタッフが20名ほど在籍しており、その採用も担当しているという。

実際に設備を見てもらいたいとのことで、根本さんを誘導で参加者たちはダートの周回コースへと向かった。同牧場のダートコースの砂はJRAの競馬場と同じ砂を用いているという。夕方とあってすでにこの日の調教は終了していたが、ちょうどハロー掛けのトラクターが通過。「ハロー掛けのトラクターは外国製ですが、(国産の)普通のトラクターだとエンジンが持たないのです」との補足。ちなみに場内だけで乗る分には免許は不要とのこと。

広々とした場内では根本さんからふだんの業務についての話となり、在厩頭数が多い冬シーズンが忙しく頭数が減る夏は作業量が少なくなること。あるいは涼しい時間帯に調教を行う方針から夏と冬では朝の始動時間が異なるなど、牧場ならでは勤務体系などについて説明を受けた。ちなみにこの牧場の場内設備を見て驚くのは隅々まで手入れが行き届いていたことだが、根本さん曰く除草をしたり壊れたラチ(柵)を修理するといった土木作業もスタッフの大事な仕事だそうだ。

質疑応答では、参加者から「乗馬経験の必要性について」の質問があり、根本さんから「あるに越したことはなし、あったほうがいい」との回答。このあたり午前中に訪問したビッグレッドファームとは逆の答えとなったのだが、これも各牧場による方針の違いといえるだろう。

最後に厩舎に移動して内部の説明を受けたのだが、こちらにはこの見学会の直前にデビューしたばかりの白毛馬ユキンコ(牝3)も在厩しており、隣の馬房にいた芦毛馬と見比べる参加者も多かった。


施設見学の様子


見学会の直前にデビューしたばかりの白毛馬ユキンコ

帰りの車中

全行程を終了し帰途に就いた。車中ではアンケート方式で参加者および保護者・引率者の意見や感想を伺ったのだが、その中で多かったのが「仕事内容はもちろん、3か所の施設を回ったことでそれぞれの考え方や特徴の違いが分かった」という意見。美浦トレセンからも近く、レースとレースの間のケアがメインとなる牧場でも、規模や考え方は様々。これは同じ業界でも会社によって方針が異なる一般社会と同じであり、いわば社風のようなもの。同じ牧場といっても、そういった違いについても理解していただけたのではないだろうか。

この日ご参加いただいた方々、残念ながら参加いただけなかった方々、そして多忙ななか時間を割いていただいた牧場関係者にお礼を申し上げてレポートの締めとさせていただきます。

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