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2023 見学会レポート(関東)

2023 見学会レポート(関東)

2019年の春以来、4年ぶりとなった恒例行事、「牧場で働こう見学会2023in関東」が3月11日(土)に開催された。
4年ぶりの開催であったが、参加申し込みは定員を上回ったため、抽選で参加者を決定したうえでの開催となった。当選した参加者は、予定通り開催当日の午前7時45分に上野駅公園口 東京文化会館前に集合。バス2台に分乗して、最初の目的地・ビッグレッドファーム鉾田トレーニングセンターに向けて出発した。
車内では、同行スタッフの紹介、当日のスケジュールや見学会における注意事項の案内を行った後、各参加者から簡単な自己紹介と見学会の参加動機の発表があった。「家族が競馬好きで、幼い頃から馬関係の仕事に興味を持っていた」「JRAの厩務員を目指している」「乗馬を通して馬が好きになったから」など、様々な動機が発表されたが、一様に馬の業界に携わろうとする強い意志と熱意を感じる自己紹介であった。以降、最初の牧場に到着するまでの間は、『BOKUJOB YouTubeチャンネル』にアップされている動画を車内テレビで上映。「BOKUJOB出身者座談会」「牧場PR動画」といった、牧場就業希望者にとって有意義な動画コンテンツを静かに見入る参加者の姿がとても印象的であった。

ビッグレッドファーム
鉾田トレーニングセンター

最初の訪問地は、茨城県鉾田市にあるビッグレッドファーム鉾田トレーニングセンター(以下BRF鉾田)。ここは2007年の開場以来ビッグレッドファーム(本場:北海道新冠町)の本州での調教拠点となっている育成場である。
バスが到着すると、牧場スタッフの方がお出迎え。参加者はバスから降車するとまず、附田場長から見学に際して「大きな声を出さない」「急に動かない」「馬は慣れないこと(普段と違う風景)に警戒(臆病)する」「必要以上に近づかない」「馬には触れない」「馬の後ろには絶対に立たない」などの注意事項が伝えられた。こうした説明は、ワイヤレスガイドによって参加者各自のイヤホンを通して、屋外でもクリアに参加者の耳に届いている。附田場長が説明している間も、参加者の間近では在厩馬の調教後の手入れが行われており、この後の見学に向けて参加者の期待感が盛り上がってきたように感じた。


屋根付き坂路馬場を登る参加者

見学に際しての注意事項説明の後、参加者全員で屋根付き坂路での調教風景を見学。普段は調教が終了している時間であるが、今回の見学会のために時間調整していただき、坂路を疾走する競走馬たちの調教を見学することができた。坂路の全長は約640mで勾配(高低差)は9%。全長が短い分キツイ勾配となっており、さらに砂は非常に深くパワーを必要とする馬場であるため、しっかりと負荷のかかった調教ができるという。在厩馬はこの坂路を最低3本インターバル方式(不完全回復を挟みながら運動[中強度〜高強度]を繰り返すトレーニング方法)で調教している。坂路を駆け上がった後は速歩でスタート地点まで戻り、再度坂路を駆け上がるという調教を行っている。1本目は体を温めるという意味合いで軽く走らせて、2本目以降は1ハロン(200m)16~17秒(馬にとっては8~9割くらいの力、実力によっては全力)の速さで走らせているとのこと。こういった調教では、すべての馬が同じ速度で走らせるのではなく、事前に調教メニューを考えた上でそれぞれの馬に合わせたペースで走る速度を設定しており、それぞれの馬の年齢や実力によって適正な調教を行っているのである。

この後、牧場内見学と質疑応答の2組に分かれて、次のスケジュールを開始。見学グループは、屋根付き坂路馬場、トレッドミル見学、厩舎内(馬房)などを見学。坂路馬場では、参加者は調教終了後の坂路馬場を登坂。実際に坂路を歩いてみると思った以上に砂は深く、歩くのもままならない馬場で、100mほど歩いて上っただけで息切れするほどの馬場で、実際にここを走る馬はしっかり負荷がかかったトレーニングができると実感できた。トレッドミル(馬専用のランニングマシン)見学では、実際に馬が走っている風景を見学することはできなかったが、マシンが稼働する風景を見学することができた。実際にトレーニングで行う速さ(20~30kmほど)や最大速度(50km)で稼働するマシンを見学。また、傾斜をつけることもできるということで、皆興味深く見入っていた姿が印象的であった。その後、厩舎内を見学。間近に見る競走馬に参加者は興奮気味に見入っていた。馬房内は調教中に麦稈を入れ替えてきれいな状態で、厩舎全体も清掃が行き届いており、馬にとって最適な環境が整備されていた。


附田場長との質疑応答

質疑応答グループは、まずは附田場長から参加者の事前質問の回答をお答えいただいた。「牧場スタッフさんがどのような動機から牧場で働いているのか聞いてみたい」「牧場での1日の業務内容は?」「騎乗員は1日何鞍くらい乗るのか?」などの基本的な質問に対して「動機として“馬が大好き”ということは、スタッフ共通の動機だと思います。実際に競馬を全く知らないスタッフも在籍していますが、“馬が大好き”というモチベーションでしっかり業務をこなしています」「牧場での1日は、牧場ごとに異なります。育成牧場では基本的に馬に乗ることが業務の中心になります。1スタッフにつきおよそ5鞍程度騎乗し、騎乗後は馬体に異常がないか確認しながら手入れを行っています。これ以外にも厩舎内清掃や施設整備等の作業を行っています」と分かりやすく回答していただけた。次第に参加者から挙手による質問が出始め、「牧場就業前に必要な資格や経験はありますか?」という質問に対して、「重機免許があると良いですね(笑)、あと経験ではないですが体力はつけておいた方が良いです。競走馬の騎乗は皆さんの想像以上に体力が必要です。長く乗馬を経験している人でも、続ける体力が無く退職する人もいるくらいなので、乗馬経験自体は仕事を長く続けていくうえでは、あまり関係ないです」と回答いただくなど、参加者と附田場長の熱心な質疑応答が行われた。

最後に「牧場勤務は資格がある世界ではありません。年齢や性別の関係なく働くことができます。年齢が高くなると体力的にも厳しい面はありますが、牧場での仕事をやりたいという気持ちがあることが大切です。生きものを扱う牧場の仕事は、大変であることは事実ですが、“この仕事がやりたい”という気持ちがあれば大丈夫」と附田場長。質疑応答後は参加者すっきりとした顔立ちになり、BRF鉾田での見学は終了し、次の見学地へと向かった。

KSトレーニングセンター

車中で昼食を取りながら移動し、牛久市にあるKSトレーニングセンターに到着。当牧場はJRA美浦トレーニング・センターから車で10~15分ほどの距離に位置している。1周800m(外)と300m(内)のダートコース、630mの坂路コース、他に200mの丸馬場、50m×70mの角馬場、最新式のロンギ場を擁する施設で、複数の育成牧場が共同で利用している。
牧場に到着すると早々に、クラブハウス前に用意されていた消毒漕と消毒液で、手指と靴裏の消毒をして入場。案内いただいた坂本社長曰く「外部の方が来場されることはあまりありませんが、入場される際は必ず消毒をお願いしており、これは新型コロナウィルスの蔓延前から実施しています。外部から伝染病が持ち込まれないようにするためで、馬主から預かっている馬が病気に感染しないよう守るための措置になります」とのこと。そこには馬に対する真摯な姿勢と緊張感を持ち合わせたプロフェッショナルの姿があり、参加者も程よい緊張感を感じながら牧場見学に臨むことができた。


坂本社長からの説明による厩舎見学

牧場内見学では、見学スケジュールの関係で、厩舎内の見学のみとなったが、厩舎見学でも牧場の特徴を垣間見ることができた。厩舎内には、先日レースを終えて戻ってきたばかりの競走馬や重賞勝利経験のある競走馬たちが過ごしており、重賞勝利馬である現役競走馬を間近で見学する参加者の目は真剣そのものだった。また、牡馬と牝馬を厩舎で分けることで、それぞれの馬を落ち着かせ無用なトラブルを防ぐための工夫といった細やかな点が、至る所で見ることができる厩舎見学となった。
 厩舎見学を終えた後、こちらの牧場でも質疑応答の時間となった。最初に参加者の質問のなかで多かったもの、特徴的であったものに対してお答えいただいた。「女性でも牧場で働くことはできますか?」という質問に対して、「牧場の仕事は女性にも非常に向いている点があります。それは、女性は“気付き”が多い点です。馬は言葉を話すことができません。ケガしていても馬は“痛い”と伝えることができないので人間が注意深く観察し、見て気付いてあげることが重要です。女性はそんな“気付く力”が高いので、そういった力が牧場就業に向いている点だと思います」と坂本社長。「男性の方は体力があるので、力仕事で能力を発揮できますし、女性の方は、気付きで能力を発揮できます。男女関係なく同等に活躍できる職場だと思います」と付け加えた。


坂本社長との質疑応答

その他今の育成牧場の状況をお話しいただいた。「一昔前は“育成牧場は3Kの職業”なんて言われていたこともありましたが、今は初心者に対する研修制度や社会保険、有給休暇といった福利厚生もしっかりしているので、従業員は不安なく業務に専念しつつ、充実したプライベートを過ごすことができる職場環境になっています」としつつ「馬の業界に入るか迷っているなら、勇気をもって入ってみることをお勧めします。正直“牧場の仕事”は大変なことが多いと思いますが、その中で様々な経験を積んで、周りの仲間とコミュニケーションを取って色んな問題を解決する力をつけようとする気持ちが大切で、それが人として成長してく糧になると思います」と、背中を押してくれる暖かい言葉をかけていただいた。それは坂本社長の経験から出た参加者への叱咤激励であり、その言葉を締めくくりに、見学会は終了。参加者はバスに乗り込み、坂本社長の見送りとともに、次の見学牧場へと向かった。

松風馬事センター

KSトレーニングセンターを出発し、この日最後の見学牧場である松風馬事センターへはバスで15分ほどの距離。美浦トレーニング・センターと同じ美浦村にあるこの牧場は、1周900mのダートコースと400mの坂路コースを有している。その立地の良さからその日にレースを終えたばかりの馬が移動してくることもあると話す石内広報・人事部長。石内部長の案内で施設内の見学へと向かった。まずは周回コースを見学ということで実際にコース内に入りダート馬場の感触を確かめる参加者たち。BRF鉾田のダート坂路の馬場と比較するかの様に何度も馬場を踏みしめる参加者の姿が印象的だった。周回コース内には乗馬用馬場があり、見学中に乗馬練習をしているスタッフの姿も見受けられた。松風馬事センターでは、乗馬未経験のスタッフは、この乗馬用馬場で乗馬練習を行うことができるとのこと。

周回コース見学の後は、牧場の方々のご厚意で、馬と触れ合う時間を設けていただいた。
厩舎に移動すると、洗い場でシャワーを浴びている馬が2頭と、スタッフに引かれて近寄ってくる馬1頭。どの馬も大勢の参加者に驚くことも無く、ゆったりとした雰囲気で佇んでいる。参加者は“ブラッシング体験”“引き馬体験”“厩舎内見学”と別れてそれぞれを体験していった。ブラッシングでは、牧場スタッフの指示のもと、最初は恐る恐るブラッシングをしている参加者も、次第に笑顔に。これまで馬に触れる経験のない参加者も多かったが、すぐに手慣れた手付きとなっていった。引き馬では、馬に手綱を掛けてゆっくり引いて行った。15m程の距離を数往復歩くという短い体験であったが、牧場就業した際には最も多く行う所作である引き馬。馬が自分の歩く速さに合わせて並んで歩く体験は、参加者が牧場に就業した際のイメージに繋がる体験となった。厩舎内見学では、見学だけではなく、牧草を食べさせる体験もさせていただいた。あいにく飼い付けしたばかりで積極的に食べない馬もいたが、直接馬に触れる機会ということもあり、参加者は嬉しそうに馬と触れ合う風景が印象的であった。


緊張した面持ちでのブラッシング体験

参加者各々がふれあい体験をしている最中、1人の人物が牧場を訪れ、その姿に参加者の多くがざわつき始めた。実は今回JRAと牧場のご厚意で嬉しいサプライズが用意されていたのだ。そのサプライズとは、2022年に引退した藤沢和雄元調教師の登場である。藤沢氏は、美浦トレーニング・センターに所属していた元調教師で、調教師として1570勝をあげ、1995年から2009年までの間、11度のJRA賞最多勝利調教師を獲得した名伯楽として知られている。もちろんその偉業を知る参加者も多く、驚きを隠せない様子で藤沢元調教師と対面。馬との触れ合い体験が終了し、急遽藤沢元調教師との質疑応答が実施された。


藤沢元調教師からの説明を真剣な眼差しで聞く参加者

質疑応答は挙手制で行われ、次々と手が上がり質問が投げかけられた「調教師生活で大変だった馬はいますか?」「一番印象的だった馬はどの馬ですか?」など、調教師という仕事の中で出会った馬についての質問が多く、藤沢元調教師はその人柄のとおり、時には柔らかく時にはジョークを織り交ぜながら参加者の質問に答えていた。しかし最後に「馬は人間が真摯に向き合えば、必ずそれに答えてくれる生き物です。皆さんが牧場で働くことになったとき、大事に接してあげてください。そうすれば馬との信頼関係が構築されて、その先には大きな感動が待っているはずです。馬が大好きで馬の牧場で働きたいと思ったその気持ちを大切に持ち続けてください」と藤沢元調教師。長い時間を馬と過ごし、競馬という世界で結果を出し続けてきた名伯楽の言葉は深く参加者の心に刻まれたことだろう。質疑応答の後は、参加者全員と藤沢元調教師との記念撮影を行い、牧場の皆様の暖かい対応と藤沢元調教師に感謝をしながら帰路についた。

帰路のバス車中では、参加者の方々には車内でアンケートを記入していただき、各々1日を振り返りながら午後6時半過ぎに無事上野駅着、解散となった。

今回の見学会では、それぞれの牧場が馬と真摯に向き合う姿勢を垣間見ることができ、牧場就業を志す参加者の背中を押す催しとなった。今後のBOKUJOBの活動は、6月3、4日(安田記念)に東京競馬場で、BOKUJOBメインフェアが4年ぶりに開催されます。今回見学会に参加されなかった方にも、このレポートを読んで少しでもBOKUJOBに関心を持ち、足を運んでいただければ幸いです。

最後に、今回見学会にご協力いただいた各牧場の皆様と藤沢和雄元調教師に厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。

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