2016 見学会レポート(関西)
2016 見学会レポート(関西)
今年で第5回を迎えた『牧場で働こうin関西』。昨年は生憎の雨模様となったが、今年は気温差の激しい日が続くなど心配されたものの、好天に恵まれての1日となった。
参加者は付き添いの父兄7名を入れ、総勢25名(ほぼ男女比2:1)。遠くは香川、三重からの参加者がおられたが、誰一人遅れることなく集合。予定通り新大阪駅を定刻の午前8時に出発、最初の目的地である滋賀県甲賀郡グリーンウッドトレーニングに向かった。
早速、移動時間を利用し、職員の自己紹介を行い、牧場での注意事項、トラベルフォンの使用方法などの説明があり、参加者の自己紹介へと移った。
まずは氏名、年齢、(大半が高校在学中)などから始まり、参加の理由としては「馬が好き」「動物に携わる仕事がしたくて」「厩務員になりたい」等があった。
中には、「―昨年、競馬学校の騎手課程を受けました、でも落ちてしまった。今年は足をケガして受けなかったが、ともかく馬の仕事をしたいので参加しました」という参加者もいて、付き添いのお母さんも「娘は半端ではないのです。乗馬学校にも通い、学校も昼間は馬に携わりたいからと通信制に変わった」との事。さすがにこれには驚かされたが、具体的な目的を持っての参加者が多かった。車中でBTCなどのビデオが流れると、食い入るように見つめていた姿が印象的であった。
渋滞もなく、1時間弱で最初の目的地であるグリーンウッドトレーニングに到着した。
グリーンウッドトレーニング
参加者全員で、トレーニング場内の移動となると、相手は繊細なサラブレッド、しかも現役競走馬である。それらを考慮し2班に分かれての見学となった。やはり最初の見学地であるせいか、全員緊張しているようであったが、田中マネージャーのソフトな口調が和やかな雰囲気をつくり、参加者の硬さも次第に解れていくようであった。
まずは屋内坂路コースのスタンドで、調教中の馬を見学。やはり現実の現役競走馬のトレーニングは迫力がある。田中マネージャーが「何でも聞いてくださいよ。どんなことでもいいですから。恥ずかしいことなんかありませんよ」と言うと、参加者の一人が「以前、栗東の調教見学で見たことはあるのですが、こんな間近では初めてです。迫力が違います」と驚いた様子。「女性で働いておられる方は?」「馬に乗れなくてもいいのですか?」と矢継ぎ早に質問が飛んだ。「現在女性は3名です。調教もしていますよ」「馬に乗れなくても、この近くにある水口乗馬クラブと提携していて、そこでしっかり練習することができます」と丁重に答えられていた。更に「バックアップ体制は、うちの自慢のひとつですね」と強調されていた。
厩舎に移動中、栗東トレセンから馬運車が到着。馬の出し入れ、診療所の見学など、身近に見ることなどないだけに、参加者の興味は尽きなかった。
「どうですか。私なんかより、うちの従業員に聞いてください。女性もいますから」と田中マネージャーは男子2名、女子1名を紹介された。
男子は就業して1年、一日のスケジュールなどを説明、女子は就業2年目で「もともとは動物園で働きたかったのです。でも馬が可愛くなってここに来ました。でも馬は凄い力。人間ではとてもかなわない、でもそれも楽しい」と笑顔で話したあと、「私は32歳です。2年ほど前までは普通のサラリーマンでした。馬に触ったこともなかったです。でも馬が好きで仕方がなかった。シンドイ?それはシンドイときもあります。後悔?全然、ありませんね。好きなことをしているときが最高ですよ」と。すると「正直に聞きます。厩務員になりたいのです。それは人手をとられる意味で牧場にとって好ましくないと聞きます。それは本当でしょうか。それに厩務員学校を卒業し、免許を取得しても簡単になれないとか聞いています。現実はどうなのですか」と具体的な質問が出た。何より真剣な証拠だ。これは私が答えますと田中マネージャー。「牧場などによって事情はあるでしょうが、それもあるでしょう。だがうちは積極的に応援しています。それと現状は厩務員の欠員待ちの状態ですが、それも定年制などで、緩和される方向に向くでしょう」との事。またヘルパー制度というのがあって栗東トレセンの厩務員が病気などで仕事ができないときに、栗東トレセンで厩務員の仕事に従事することができるシステムがある。「昨年も数回ありましたよ。勿論、給料もヘルパーの規定に従って支給されます。あっ、そうそう身上金は貰えませんが」と冗談をまじえながらの返答であった。
その後、従業員の独身寮の見学。『蹄』という寮名だが、どこから見てもそれは寮というより、マンションである。それも少し離れた所にあり、バスで移動となったが、それだけプライベートな環境は保たれているということだ。 最初の訪問地だけあって緊張していることもあり、時間の経つのも早く、やがて昼食タイムとなった。
信楽牧場
昼食レストラン『たぬき』から30分ほどで信楽牧場に到着。中内田社長がバスに乗られ、まずは全容を説明され、厩舎などの施設を案内された。とくに馬の飼い葉は「これは糖蜜入りなので甘いですよ。カロリーがとれます」と、それらの特徴などを詳しく説明され、参加者も口にした。その後はお楽しみのパドックで乗馬体験。これが実に楽しい。さすが牧場で働こうとの思いがあるのか、それこそ馬は休む暇もないほど。特に競馬学校受験の経験のある女性などは、軽いキャンターをするほどであった。
その後は食堂での懇談会。質疑応答を含む活発な場となった。そこで、この『牧場で働こう』の第2回の参加者が信楽牧場で働いており、彼が説明役となった。やはり馬が好きで、この企画に参加後、BTCに進み、現在信楽牧場に勤務している」とのこと。「一番楽しいこと?それは育成した馬が競馬に出走するときです。これほどワクワクすることはありません。すべてがこの一瞬に凝縮されていると言ってもいいくらいです」。ちなみにBTCの就職率は100%。「信楽牧場を選んだ理由は?」の質問が出た。どんな返答をするのか、そう思っている間もなく「社長です。社長の信念に共感しました」と即答。これほど単純明快、誰もが頷く答えである。「恥ずかしいな。あっちに行っていようか」と社長。更に、「私は、親父に言われたことがあるのです。」「従業員には、美味しいもの、温かいものを食べさすように。」それはいまでも忘れないようにしています。彼の志望理由が分かった気がした。「体重は?」「寮は?」などの質問にも、「具体的な質問はうれしいですね。そのやる気が必要なのです。それが基本です。うちの牧場でも、やる気がある者とない者の差は確実に出てきています。そうなると仕事上でも、キャンターを任せられる、任せられない、それこそボーナスにも差が出ます。インターンシップ制というのがあり、1週間以上牧場で就業体験ができるという制度です。これらを活用されるのもひとつの方法です」など詳しく説明された。後で知ったのだが、参加者の一人が早くも信楽牧場でインターンシップ制を利用することを決めたとか。
昨年も熱気を帯びた懇談会であったが、今年もそれ以上の場となり、次の訪問地のノーザンファームしがらきに向かった。
ノーザンファームしがらき
信楽牧場から近い所、高地にあり、今の時期、まして夕方近くとなるとまだ肌寒い。 その地にノーザンファームしがらきがある。全容、施設、それらの規模は育成場として他を圧するものがある。そして育成中の馬たちは、今の日本競馬を代表していると言ってもよいほどだ。周回コースは1周900m、坂路コース800m、320馬房あり、ウォーキングマシンはひと厩舎に1台、トレッドミルは2厩舎に1台設置されている。こうなれば栗東トレセンと大差はなく、驚きの連続であった。
最終訪問地であり参加者もリラックスし、育成中の馬が重賞レースの常連となれば、競馬好きの参加者は、一競馬ファンに変わっていた。「会社で言うなら、大企業ですね」のコメントがノーザンファームしがらきの的を得た感想であろう。「そうです。いや、日本一でなく、それこそ世界一です」との職員の返答も的を得たものであった。
全行程を終え帰路に着いたが、新大阪駅に定刻通り到着、解散となった後も、職員に質問する参加者がおり、充実した第5回『牧場で働こうin関西』であった。