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2018 見学会レポート(関東)

2018 見学会レポート(関東)

春の恒例行事となっている「牧場で働こう見学会in関東」。今年は3月3日(土)に、北は岩手、南は沖縄からの11組が参加して開催された。
バスに乗り込み、午前7時55分に東京駅近くのターミナルを出発。「日頃、動物と触れ合っているが馬は未知の世界」「自宅から競馬場が近く、競走馬に興味がある」「普段は知ることができないことを見聞きして多くのことを得たい」など、それぞれの思いを胸にドキドキワクワクの見学会のスタートとなった。
車中で事務局から「見学の注意事項」についての説明があり、簡単な自己紹介をした後は、牧場で働く人々の座談会や仕事内容を紹介するビデオを鑑賞しつつの移動。ビデオでは、牧場で働くことになったきっかけや、日々の仕事の流れ、休日の過ごし方などが紹介されていた。このビデオを観て、緊張がほぐれた参加者もいたのではないだろうか。ビデオが流れる中、車内には、少しの不安と大きな期待が満ちているようだった。
この日は春の陽気に恵まれた絶好の見学日和。車窓から見える霞ヶ浦の水面もキラキラと光を反射し、美しい景色を作り出していた。参加者の方々がこの日を思い出すのは、人生のどんな場面なのだろう。その傍らに馬がいてくれたら、事務局としてこれ以上嬉しいことはない。

ビッグレッドファーム
鉾田トレーニングセンター


附田場長(右)の説明

最初の訪問地、茨城県鉾田市にあるビッグレッドファーム鉾田トレーニングセンターに到着したのは午前10時過ぎ。ここは、ビッグレッドファーム(本場:新冠町)の本州での調教の拠点になっている場所だ。新ひだか町にある同グループの真歌トレーニングパークでは、90年代に育成場としてはいち早く坂路調教を取り入れ、「虎の穴」と呼ばれるほどのハードな育成方法で、数々の強豪馬たちを競馬場に送り込んで来た。その流れを受け継ぎ、2007年に開場したのがこの鉾田トレーニングセンターだ。この日は附田場長と9名のスタッフが出迎えてくれた。まず、附田場長から見学に際しての注意事項が伝えられた。「大声を出さない」「走らない」「馬は怖がり。精神面は鍛えているけれど、普段と違う光景には反応してしまう」「馬の後ろには絶対に立たないように。馬の視界は350度。見えない真後ろで何かの気配がすると、蹴りを入れてくるので大変危険」など。こういった説明はワイヤレスガイドによって、附田場長が着用しているマイクから参加者各自のイヤホンへと流れる仕組みになっている。


調教後の競走馬たち

一通りの説明の後、屋根付き坂路での調教見学が行われた。この見学会のために、調教の最後の組を残しておいてくれたそうだ。この組はこの日の5鞍目で、中には1000万条件のフロムマイハートや、マイネルアトゥーの姿もあり、計9頭が順に坂路を駆け上がる姿を見学することができた。坂路は600mで高低差は9%。砂は深く、人間なら、“たとえ走っても、歩くような速度でしか進めない”くらいにハードだそうだ。馬たちはこの坂路を最低3本。インターバル方式で、坂路を駆けあがった後はダグ(速歩)でスタート地点まで戻り、再び坂路を走るということを繰り返し、15-15と言われる1ハロン(200m)を15秒(馬にとっては8~9割くらいの力、実力によっては全力)の調教をこなしている。ハードなトレーニングのため、3日乗ったら1日は軽めの運動にして、馬たちがリフレッシュできるようにしているとのこと。このように、鉾田トレーニングセンターでは、「すぐに出走できるレベル」で、トレセンのものに近いか、またはそれ以上の調教をしているのも特徴のひとつだ。そのせいか、馬たちの動きもきびきびとし、活気に満ちている印象を受けた。

次に、育成牧場の必需品ともいえるウォーキングマシンを見学させていただいた。約1時間、馬たちはマシンの中を歩き続ける。中はゴム張りで、馬が暴れても怪我をすることがないよう安全に配慮された造りになっているそうだ。続いて、稼働を目前にした真新しい施設の内部へ。ここにはトレッドミル(ルームランナーのようなもの)が2機設置され、この日から2日後の3月5日に始動予定だという。時速50キロ、傾斜は8%までつけられ、先の“15-15”というかなりの負荷をかけた運動も可能になっている。前方の大きな扇風機は、実際に走っている時のような強い風を受けることで、トレーニングの効果をあげる役割を持っているそうだ。「どこも若い人材が不足しています。その中で、最小限の人員で最大限の効果をあげるためのウォーキングマシンであり、トレッドミルです」と附田場長が話してくれた。この後、坂路を歩く体験では、参加者一同靴が汚れることも気にせずに、興味深そうな様子だった。実際に歩きづらさを体感することで、馬たちの力強さを感じられたことだろう。


ゲストハウスでの質疑応答

庭付きというイメージの“サンシャインパドック”がある馬房の見学、飼料の説明を受けた後、ゲストハウスへ移動し、質疑応答タイムへと移行した。牧場からは、附田場長、動物の専門学校出身(9年目)、BTC出身(2年目)の計3名のスタッフが参加してくださった。昨年までは講義形式で行われていたこの時間だが、今年は3班に分かれてのグループトークでの実施となった。「牧場に入る前に学校に行くかどうしようか迷っているのですが・・・」「身体が大きくても馬に乗れますか?」など、活発なやりとりが行われホットな雰囲気に。「学校で知識を増やすのも良い。でも、今は人手不足だから条件を見て自分が希望する牧場に入れるチャンスがある」「牧場では身体が大きくても大丈夫」という言葉を聞き、安心したように頷く参加者の姿も見受けられた。その中で、「若いうちにやりたいことに気づいたのなら、準備もできるし、その分到達地点に至るのが早くなる。最終的に何者になるか、10年後20年後、自分は〇〇になっていますと誇りを持って言えるのかを考えて将来を見据えて欲しい。馬の仕事はいろいろな分野がある。だから、こうして今日、興味を持ってもらえたのなら、ぜひ馬の仕事に就いて欲しい」と語った附田場長の言葉は、馬に携わる人生の先輩から、若い世代への力強いエールにも聞こえた。終盤はプレゼントの配布や、馬(マイネルアンドゥミ)との記念撮影などの嬉しいサプライズも。参加者からは「馬ってあったかい」「かわいい」という声も聞かれ、和やかなひとときに。スタッフの皆さんに感謝しつつ、午後12時30分、次の場への移動となった。

KSトレーニングセンター

車中で昼食を取り、午後2時過ぎに到着したのは、牛久市にあるKSトレーニングセンター。こちらはJRA美浦トレーニングセンターから車で10分から15分ほどの距離に位置し、1周800m(外)と300m(内)のダートコース、630mの坂路コース、他に200mの丸馬場、50m×70mの角馬場などを擁する施設で、現在は8つの育成牧場が共同で利用している。こういったテナント形式での利用方法は、最近の美浦近郊でのトレンドだそうだ。案内してくださったのは、KSトレーニングセンターを経営する坂本さん。脱サラ後、独立して10年。さまざまな経歴の持ち主だ。訪問時はちょうど休憩時間だったため、場内は静かだったが、各馬房からは競走馬たちが顔を出す姿も多数見られ、稼働時間の活気溢れる生き生きとした風景を思い描かせていた。


坂路コースに入場して感触を確かめた

まず、二つのグループに分かれて「天狗山」と呼ばれる調教を見るための建物へ。高い場所から周囲を見渡し、施設の広さを改めて感じた参加者もいたようだ。待機している間に馬場に入らせていただき、砂の深さを確かめることもできた。次に、坂路のスタート地点へ移動。整備された柵沿いには春の小花が咲き、自然の息吹も感じられる。馬にとってこういった環境はプラスになっていることだろう。もちろん、働く人にとっても。「この仕事は職人ではありません。まず大切なのは、あいさつができること、遅刻をしないことなど、社会人としての基本がきちんとできることです」と坂本さんは言う。最近の牧場は、定期的な休日もあり、社会保障も充実して、“サラリーマン”のような対応になっているそうだ。

続いて最新式の新厩舎へと案内していただいた。最初の場所からバスで2分ほどの距離にあるが、曲がり角が急で、大型車にはなかなか厳しい道だそう。そこを、切り替え無しで曲がり切った運転手さんに、参加者から拍手が沸き起こる場面も。そういった光景からも、見学会の雰囲気の良さが伝わって来た。


手際よく飼い葉を用意するフィードマン

新厩舎が建つ敷地に到着すると、まず「馬体重計」を見学。一見平坦に見える床だが、乗っただけで体重が表示される仕組みに興味津々といった参加者もいたようだ。新厩舎の内部は高い天井と広い通路が印象的で、資材には国産の木を使用するなど、馬のことを考えたこだわりの構造になっている。1棟につき、建物内部に4つの洗い場があるが、こういった造りは、寒さが厳しい北海道以外では珍しいものだという。坂本さんによると「洗い場が中にあることで、雨の日など、馬をきれいに拭いた後に濡れることもなく、馬が暴れることも少ない」とのこと。通路では、フィードマンと呼ばれるスタッフが、手際よく飼い葉を用意する様子を見学する機会にも恵まれた。

質疑応答では「男性目線と女性目線は違う、女性はちょっとした変化など、細かいことを見つけるのが早いという長所がある。だから、たとえ力仕事ができなくても心配しなくていい」「この業界は狭いので、良いことも伝わりやすい。ここは美浦近郊ということもあって、調教師さんからも見つけてもらいやすいというメリットもあるし、独立などについても周囲がポジティブに応援してくれるから、高い目標を持っている人にとってやりやすいと思う」という話もあった。「どの社会でもスキルと真面目さがあれば成功する」という言葉は、いろいろな仕事で結果を出してきた坂本さんならではの、力強さと説得力を感じさせた。「結果が出やすい。目に見えやすい仕事」という部分を表していたのが、この日の中山4Rに出走した育成馬ミッキーポジション(3歳牡馬 父ディープインパクト 菊沢隆徳厩舎)の勝利だろう。ここから美浦に入厩後、わずか2週間での勝ち星となったそうだ。

厩舎の見学を終えた後、作業をしていた坂本さんのお母様とお会いし、新しい独身寮を見学することができた。「若い人が暮らしやすくなれば良いな、と思って造ったんですよ」とのこと。口調も表情も、優しくあたたかい。部屋はワンルームで、バストイレ、ミニキッチンがあって快適そうだ。参加者からも「わぁ、いいですね!」「とっても住みやすそう」という声が多数聞かれた。

ここでの締めくくりに、坂本さんからの言葉を書いておくことにしよう。「牧場はどこも人材不足なので、未経験で入るなら“今”です。真面目に、馬に携わった仕事で一生続けていきたいと思っていれば、見ていてくれる人はいる。たくさん見学して、自分で選ぶのが大事だけど、消去法ではなくポジティブなことを見て選ぶことが大切。仕事は面白味がないと続けられないと思う。でも、とりあえず馬、という気持ちなら止めた方がいい。人間が作り出したサラブレッドには責任を持って接しなくてはいけないからです。言葉が話せない生き物相手。人間の赤ちゃんと同じで手が掛かる。でも、逆にそのことで、馬が愛しくなり、愛情も沸きます。人間形成にも魅力的な仕事ですよ」。

午後3時20分。親しみやすい人柄の中に、仕事への情熱を感じさせた坂本さんの言葉を胸に刻み込み、バスに乗り込んで次の目的地へと向かった。

松風馬事センター

この日、最後に訪れたのは美浦村にある松風馬事センター。KSトレーニングセンターからバスで15分ほどの距離にあり、JRA美浦トレーニングセンターは目と鼻の先だ。待っていてくださったのは、石内さん。中学を出て馬の道に入ったという29歳のベテランスタッフだ。石内さんの案内で、さっそく馬場へと向かう。途中ですれ違う従業員の皆さんは、笑顔で挨拶してくださり、声も明るく気持ちいい。そういえば、バスを降りてすぐに人懐っこい猫が出迎えてくれた。それらはそのまま、松風馬事センターの「社風」を表しているとも言えそうだ。

松風馬事センターは1周900mの馬場を保有。これは、この辺りの単独育成場としては、最も大きなコースとなっている。他に1周400mの坂路、人を乗せないで調教をするための屋内施設ロンギ場、パドックや角馬場など、充実した施設で約180頭の馬たちの育成が行われている。木々に囲まれた自然豊かな環境で、春には馬場内の桜並木が美しいそうだ。


調教コースの説明

ここでは、日々、馬とのコンタクトを大切にした調教を行っているとのこと。個々の状態にもよるが、15-15の調教を週2回実施し、馬によって調教メニューを考え、約50人が働いている。外国人従業員も多く、皆、気さくで溶け込みやすい人柄だそうだ。見学会の終盤には、仕事を終えた外国人従業員の皆さんが近くを通りかかったが、皆、笑顔を向けてくれていた。ここでも活躍しているのがウォーキングマシンだ。脚が腫れやすい馬の血行促進のための運動や、ぽっちゃりしてしまった馬たちのダイエットなどにも大きな役割を果たしているとのことだった。


若手女性スタッフとの意見交換

馬場の見学の後は、牧場の方々のご厚意で、馬との触れ合いタイムという嬉しいサプライズが用意されていた。現れたのはアドラビリティ(父ゴスホークケン)と、半血で父ノヴェリストのビビアンリスト。トモの模様が個性的で、右目が青い「さめ」というミステリアスなビビアンリストは、ノヴェリストが種牡馬登録する前、試験として行われた種付けで生まれた馬だそうだ。その後、質疑応答に対応してくれたのは、3年目と4年目の若手女性スタッフ2名。一般的にはまだまだ男社会というイメージを強く持たれている業界なだけに、実際に牧場で働く女性スタッフから直接話を聞けるのは貴重な時間といえるだろう。二人からの「高校で農業を学んでいたけれど、馬は未経験だったので好奇心があった。不安もあったけど、先輩が教えてくれるので早く上手くなろうと努力している。いろいろな作業があるのでたくさんのことを学べる」「以前は北海道で馬の仕事をしていたが、12月にBOKUJOBで松風馬事センターに就職した。いろいろな仕事をさせてもらえて、さらに充実した時間を過ごせている」という言葉に、安心したように笑顔を見せる参加者の姿もあった。また、参加者とは学校の先輩後輩という偶然の一致や、BOKUJOBでの就職談などもあり、親近感を感じるひと時にもなったようだ。気になる牧場での暮らしだが、松風馬事センターには、敷地内に寮や社宅があり、近隣の阿見アウトレットショッピングモールでの買い物も楽しめるとのこと。圏央道が整備され、交通面での利便性もぐっとアップしている。

「松風馬事センターでは、ジョッキー志望でも厩務員志望でも、皆に人間性の部分から丁寧に教えることを大切にしています。日々のことや、仕事でわからないことは、僕たちがしっかり教えて育てていく。学校で学んだことも活かされるけれど、社会に出てから教わることもたくさんある。絶対の正解はないけれど、早く始めた分だけ経験を積めるメリットがある。頑張っているスタッフがいるから牧場は成り立っています。だから、若い人が少しでも興味を持ってくれるというのは、牧場にとって幸せなこと」と石内さん。牧場の仕事への誇りと、一緒に馬創りをする仲間を求める熱い思いが込められているこの言葉は、参加者の心にしっかりと残ったことと思う。午後4時半、牧場の皆さんの温かい対応に感謝しつつ、東京駅に向けて帰路についた。

見学会終了後、参加者の方々には車内でアンケートを記入していただき、予定通り午後6時半に無事東京駅着、解散となりました。どの牧場でも共通していたのは「きちんとあいさつできること、真面目に仕事に向き合う姿勢の大切さ」でした。今後は、6月2、3日(安田記念)に東京競馬場で、6月23日、24日(宝塚記念)に阪神競馬場でBOKUJOBフェアが開催されます。今回見学会に参加されなかった方にも、このレポートを読んで少しでもBOKUJOBに関心を持ち、足を運んでいただければ幸いです。

最後に、今回見学会にご協力いただいた各牧場の皆さまに厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。

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