2018 メインフェアレポート
2018 メインフェアレポート
6月2日(土)、3日(日)、初夏の日差しが眩しい東京競馬場で、BOKUJOB2018フェアが開催された。牧場で働きたい、牧場の仕事に興味がある…そういった若い世代に向け、牧場の仕事とその魅力を知ってもらうために、実際に牧場で働く方々から話を聞き、理解を深めることを目的として開催されているBOKUJOBフェア。今年で9回目を迎えたが、人材不足に悩む牧場側からのニーズは高まる一方だ。
魅力ある告知と情報発信
安田記念(GI)開催中の週末ということもあり、会場となったフジビュースタンド1階のイーストホールは多くの来場者で賑わっていた。出展した牧場は28。名門あり新進気鋭ありで、バラエティに飛んだラインナップも魅力的だ。
最寄りの府中競馬正門前駅からの通路には、BOKUJOB2018フェアの告知もされており、牧場の仕事がPRされていた。これから向かう先、前を向いて歩く場所で見る告知は、もしもためらう気持ちがあったとしたら「大丈夫、行ってみて」とアシストしてくれるような力を持っていた。現地に到着する間にどんどん期待も膨らんで来る、そんな印象もあった。たまたま競馬場のそばを歩いていて、フェアの告知を見て立ち寄ってくれた高校生もいたらしい。
また、SNSを活用し、現地からリアルタイムで情報を発信するなど、若い世代にマッチした「動きのある、今の情報」を流すことで、フェアをより身近に感じてもらえたことと思う。
明るく働きやすい職場へ
吹き抜けで開放的な空間で実施されたフェアの会場は、緑と白を基調にした爽やかな雰囲気だ。こういった内装は来場者に明るいイメージを持ってもらうことに大きな役目を果たしたと同時に、出展牧場からも大好評だった。かつてイメージされていたものとは牧場自体も変わってきているし、変えていこうと努力しているのが伺える。「以前は3Kと言われた牧場の仕事ですが、今はだいぶ変わって来ています。どんどん改革されて、女性も働きやすい環境が整ってきています。
このフェアを通じて、そういったことも理解していただければと思います」そう語ったのは牧場就業促進事務局の綿引正氏だ。また、「こういったイベントを大きなレースがある競馬場で実施することが大切です。牧場での仕事が競馬場でのレースの歓声に繋がっていくということを、説明しやすく、身をもって体験してもらうことができます。こういう素晴らしい世界があるということをPRしやすいですね」(千代田牧場)というコメントも聞かれた。
3月の見学会でも各育成牧場で共通して出された“条件”は「挨拶できること。仕事を真面目にすること」だったが、今回も同様という印象だ。それは「馬に関心があるということも大事ですが、馬の様子を教え合ったり世話の方法を共有したりするなど、人間関係が大切な仕事です。コミュニケーションをしっかり取れる人が望ましいですね」(栄進牧場&EISHIN STABLE)という言葉にも表れていたと言えるだろう。変わったところでは「声が大きいこと」というものがあったが、これもまた、コミュニケーションをしっかり取れること、という意味に繋がっているように思う。
一般ファンへもPR
フェア会場で周囲を見渡していると、通り過ぎる競馬ファンの間からも「こんなイベントがあるんだね」「牧場で従業員を募集しているんだって」「あの牧場ってあの馬の生産牧場だよね」という声がたくさん聞こえて来た。多くの人が行き交う場所での開催ということで、フェア参加者以外の来場者にもおおいにBOKUJOBをPRできたのではと思う。そういった方々から口コミで、牧場で人材募集していることが広がっていくのも期待できそうだ。
このような反応には、『牧場で働こう。競走馬と、夢をみよう』というキャッチフレーズや、牧場の仕事を伝える数々の写真の存在も大きな役割を果たしていた。今回イベントを手掛けたスタッフの方々から伺ったところ、写真の撮影は4月上旬に北海道で行われたもので、「競走馬の牧場のさまざまな仕事を紹介する」をテーマに、生産(種牡馬繋養牧場も含む)・育成・コンサイナー、さらには装蹄師までを網羅しての撮影だったそうだ。
撮影時の感想として「牧場の方々が非常に協力的で、自身の仕事に誇りと夢を持っていること。そして、働き手不足について皆一様に深刻に感じていることを強く感じた」と教えていただいた。実際の現場を見て、牧場の仕事に携わる人々に会うことで、BOKUJOB開催へのモチベーションも更にアップしたそうだ。その写真はパンフレットやSNSを通じて見ることができる。そういった開催側の“思い”も、フェアの下地となり、牧場で働く人材募集という地道な種まきにも似た作業にとっての強力な土壌となっていたように思う。
出展牧場・参加者の感想
参加者は女性の姿も多く見受けられた。「女性の方が積極的にいろいろ質問してくれますね。今後は、どの牧場も女性が働きやすい職場作りがカギになってくるのではないでしょうか」、とは生産から育成までを手掛ける北海道の大手牧場スタッフの言葉だ。別の出展牧場からは、「海外の競馬界には女性がたくさん働いています。日本もようやくその流れが出始めたのでは」という言葉も聞かれた。
もちろん、男子学生も多数参加していた。両親と参加した男子高校生は「競馬は憧れの世界。自分にできるかどうか不安だけど、やれるならやってみたいと思って参加しました。丁寧に説明してもらえて安心したし、もっといろいろ知りたいと思います」と語った。農業高校で牛に携わっているという高校生からは、「動物が好きなのですが、サラブレッドの美しさにも魅かれています。こういう機会があるのなら、せっかくだから参加してみたいと思って来ました」と話していた。競馬場はあまり慣れていないそうで、「こんなにたくさんの人が来ていて、家族連れやカップルや女性同士もいて、施設もきれい。今までの競馬場のイメージが変わりました。」と笑顔を見せていた。
この他、イベントスタッフによると「何牧場もまわって熱心に話を聞く学生さんや、静内農業高校の先生と話をしたいということで来てくださった方もいました。馬が好きだけど未経験という方も多かったのですが、JBBAやBTC研修制度もご紹介できたので、これが縁になって牧場への就職へつながってくれたらなと思います」とのこと。こういった現場の声からも、BOKUJOBの活動が成果となっているという手ごたえが感じられた。
牧場とファンを繋ぐ架け橋として
フェア会場の入り口には「競走馬のふるさと案内所」のコーナーも設置され、BOKUJOBの参加者だけではなく、一般の競馬ファンへも馬産地についてのPRを行った。最近では、あらかじめインターネットで下調べして馬産地を訪れるファンも多くなっているそうだが、雄大な北海道では移動時間が把握しづらく、目的の牧場までのプランにも注意が必要だ。
また、牧場ならではの就業時間(早朝から仕事。昼は長めに休憩など)はなかなか知られることがないため、訪問の可否や訪問時間など、案内所でのアドバイスは貴重だろう。ファンとして馬産地を訪れた方々の中から、いずれ牧場で働きたいと思う若い世代が現れるかも知れない。そういった意味からも、これから夏休みなどを利用して馬産地を訪れたいと思うファンに向けて、競走馬のふるさと案内所の存在をアピールする場としても、大きな効果が得られたと感じた。
見学会や体験会との連動
事務局では、このフェアに先立って、3月に「牧場で働こう見学会in関東」と「牧場で働こう見学会in関西」を実施し、育成牧場の生の空気を感じながら、責任者やそこで働くスタッフから「現場の声」を聞く機会を設けて来た。育成牧場の現場そのものに触れた時間は、牧場の仕事への理解と認識を深め、牧場就業への足がかりとする機会となったことだろう。
フェア(東京、阪神)の後には、「夏休み牧場で働こう体験会」の実施が予定されている。見学から体験へ、実際に現場を体験することで、抱いている不安を解消していけるのではないだろうか。何よりも、体験会が牧場での仕事の新たな魅力の発見に繋がり、馬創りをする仲間への第一歩となる場であって欲しいと願っている。
事務局では、見学会、フェア、広報&相談コーナー、体験会と、年を通じてイベントを開催している。北海道から九州まで、全国各地で開催されているので、ぜひ多くの方にご参加いただきたい。