2012 フェアレポート

2012 フェアレポート

2012年7月25日(水)、東京都府中市の東京競馬場でBOKUJOBのイベント「牧場で働こうフェア2012」が開催されました。今年で3年目となるこのイベントは、牧場での就業に興味のある若者と、人材を求める牧場とをダイレクトに結ぶ貴重な場。各牧場のブースには、例年以上の熱気が立ちこめていました。牧場経営者やJRA調教師の講演、厩舎見学、乗馬体験といった「馬の仕事」への理解を深めるためのプログラムも大盛況。そんな一日の模様をレポートします。

オープニング

学生を中心に参加者は400名以上 今年は仙台と大阪からのバスツアーも

3年連続で最高気温30度を超す中での開催となった、真夏の恒例イベント「牧場で働こうフェア」。交通機関の遅延により例年に比べれば出足はやや鈍くなりましたが、それでもオープニング時には用意された椅子もぎっしり埋まり、立ち見が出るほど。最終的に参加者は400名以上に達しました。

今年は初の試みとして、東京近郊以外の地域の方にも少しでも参加の機会をということで、大阪と仙台からの参加バスツアーを催行しました。特に仙台に関しては、東日本大震災復興支援の一環として無料で実施。両ツアー合わせて30名を超える参加者たちは、わずかな時間の無駄も惜しんで熱心に各エリアを回っていました。

オープニングではブースを出す16牧場の担当者が壇上に上がり、挨拶を兼ねたPRを行いました。ダーレー・ジャパン・ファームが「働く舞台は世界に広がっています」と煽れば、吉澤ステーブルは「分場新設により人材募集中」とアピール。今年が初の試みでしたが、あとから参加者に訊くと、これが各牧場のイメージを掴むのに非常に参考になったとのこと。このあと、司会の竹山まゆみさんから会場の各エリアや講演のスケジュールなどのアナウンスがあり、いよいよイベントがスタートしました。

メイン会場

16の牧場がブースを出して参加者と直接対話 各種研修の案内や相談コーナーも大盛況

メイン会場の「コミュニケーションエリア」は、16の牧場がブースを出し、牧場の説明やPRをしたり、参加者から就業に関する質問を受けたりするための場所。広く話を聞いて比較検討の材料にするため各ブースを順に回る参加者もいれば、最初からお目当ての牧場があって、そこで採用面接さながらの話をしている方まで、利用の仕方はじつにさまざまでした。牧場側も、実際に採用に結びついた例も含め、過去2回の経験からスムーズなコミュニケーションのノウハウが蓄積されていることを感じさせる応対を見せていました。

「研修相談エリア」では、BTC(軽種馬育成調教センター)、JBBA(日本軽種馬協会)、日本装削蹄協会がブースを出し、それぞれの研修制度について案内を行いました。こちらは、すでにこれらの研修を受けるつもりで、最終的な決断のために直接、話を聞きに来たという参加者が多く、特に高校3年生が保護者とともに訪れるケースが目立っていました。

この他、「進路指導者・保護者相談コーナー」や「軽種馬青年部相談コーナー」では、特定の牧場への就業ではなく、牧場で働くこと一般や、北海道での生活などについての相談を気軽に受け付けていました。BOKUJOBが8月下旬に実施する「夏休み! 牧場で働こう体験会」の受付ブースも例年以上のペースで申し込みがあったとのこと。また、名馬の情報などが見られる「競走馬のふるさと案内所」、無料のインターネットエリアや休憩エリアも、参加者たちが自由に利用していました。

講演

社台ファームの吉田照哉氏、JRA調教師の角居勝彦氏 BTCとJBBAの研修について教官、卒業生の話も

社台ファーム・吉田照哉氏
「馬づくりを目指す若者たちへ」

講演エリアでは、全部で3つの講演が行われました。最初は社台ファーム代表の吉田照哉氏。お話は、先日イギリスで行われた「キングジョージ」を勝ったデインドリーム号の話から入りました。ドイツの馬で、昨年秋に吉田氏が購入したデインドリームは、普段は「猫みたいという言葉がぴったりの、ものすごくおとなしい馬」なのだそうです。

今から40年ほど前、大学を出て外国の牧場で修行していた時代、吉田氏は欧米の馬のおとなしさと、そのおとなしい馬がレースではすごい強さを見せることにとても驚いたということでした。そして「そういう馬が今、ようやく作れるようになったんです」と嬉しそうに続けました。生まれる仔馬の大きさや骨の太さの平均が上がった。ブレーキング(馴致)も、工夫すればするほど早くなってきた。「人間が関わると、こんなに変わるんだ、こんなにできるんだと日々、実感しています。昔できなかったことができるようになるんです」と、吉田氏は馬の仕事の醍醐味を簡潔に、しかし力強く説明してくれました。
また吉田氏は「社台ファームにはこのイベントを通じて入社した人が5人もいます」と言い、「最初はお母さんと来ていた高校生も、まったく馬のことはわからないサラリーマンだった人も、今ではみんな生き生きと働いています。普段は無口なスタッフが、関わった馬をテレビで応援をするときには大声になる。そういうのを見るといいなあと思いますね」と続けました。そして「僕はいつも、こんな楽しいことでメシを食っていていいんだろうかと思っているんです。みなさんにも、ぜひ馬に関わって、楽しい人生を送ってほしいです」という若者たちへのメッセージで講演を締め括ってくれました。

JRA調教師・角居勝彦氏
「牧場で働こうと思う若者たちへ」

今では日本を代表する名調教師となった角居勝彦氏も、最初に馬に関わったのは北海道の牧場での仕事からでした。「きっかけは大学受験に失敗したからで、動機らしい動機もなく、なんとなく始めた」はずでしたが、そこでこの世界から離れられなくなるような2つの出来事に遭遇しました。

1つは、ある1歳馬が放牧地でひどい骨折をして、それがその馬の死に繋がったという体験でした。「サラブレッドは速く走ることだけのために生きているんです。そんな命を少しでも充実させてあげたい、と思ったんです」。その思いは、サラブレッドにレース以外の生き方を与える「ホースセラピー」の活動にも繋がっていきます。そしてもう1つは、自分なりにしっかり作ったと思った馬が、トレセンから失格の烙印を押されて戻されてきたことでした。これで「自分もトレセンでの調教というものをやってみたいと思った」とのことでした。ここから調教師・角居勝彦が誕生するわけです。
「サラブレッドというのは普通の人の日常の中にいる動物ではありません。私もそうでしたが、ほとんどの人が初心者なんです。だからこそ、やる気一つでどこまでも上がっていける。私みたいな者でも、30年頑張ったおかげで当初は想像もしていなかったほど収入も増えたし、いろいろな人に、AKBにだって会うことができました(笑)。皆さんにだってチャンスがある。それが馬の世界なんです」と参加者を勇気づけた角居氏。さらに最後にはヴィクトワールピサやルーラーシップを例に出し、他のスポーツと同様に「世界」への挑戦がかなう点も競馬の魅力として挙げ、「もし牧場で会ったら、自分も世界を目指しています、と声をかけてください」という粋なコメントで講演を結びました。

BTC(軽種馬育成調教センター)
JBBA(日本軽種馬協会)
「BTC研修とJBBA研修について」

講演エリアではBTCとJBBAの研修制度について、司会の竹山まゆみさんの進行の元、現場の担当者や卒業生の話を聞く時間も設けられました。BTC研修は調教の専門技術を習得するのが目的で、JBBA研修は生産・育成の基本的な技術を学ぶためのもの。まずはそういった内容の違いや、期間や費用、研修生の生活についてまで、BTCは齋藤教官が、JBBAは中西静内種馬場長が説明してくれます。

続いて壇上には、それぞれの研修の卒業生が上がりました。BTC研修の内野さんは、村瀬ファームに就業。JBBA研修の藤原さんはシンボリ牧場で働いています。「ゲーム好きで、競馬ゲームから興味を持った」という内野さんは、JRAの厩務員になりたくて、調教が学べるBTCを。藤原さんは、種牡馬を扱いたくてJBBAの研修を選んだとのこと。いずれも参加者へのメッセージをお願いすると、「人生一度きりなんで、やらないで後悔するよりは、まずは何でもやってみた方がいいと思います」と、実体験から滲み出たリアルな言葉で参加者を元気づけてくれました。

乗馬体験、厩舎見学、造鉄デモなど

メイン会場の外の厩舎エリアでは馬に触れたりさまざまな体験も

厩舎見学

メイン会場から外に出て、しばらく歩いた場所にある誘導馬の厩舎エリアでは、事前に整理券を配布するツアー形式で厩舎見学が行われました。まったく馬に触れたことのない参加者にとっては、実際の厩舎やそこでの作業の様子を見ることができて、牧場の仕事を具体的にイメージする手助けになっていたようでした。

乗馬体験

こちらも事前申し込みの整理券制でしたが、大人気で長い列ができていたこの乗馬体験。引かれた馬に乗って練習馬場をゆっくりと1周するだけですが、特に馬に跨るのはこれが初めてという参加者にとっては貴重な体験となったようでした。中学生や高校生の参加者とともに、同行された保護者の方が一緒に体験している姿も多く見られました。

造鉄デモ

赤く熱した鉄を加工して蹄鉄を造る様子を間近で見られるこのエリアでは、完成した蹄鉄を馬に履かせる「装蹄」もその一部始終を見ることができました。特に今年は、最初から装蹄師の仕事に興味を持って参加したという方が少なからずいて、猛暑の中、汗だくになりながら火の前での作業を見学し、熱心に質問するなどしているのが印象的でした。

馬とのふれあい

おとなしい馬に近づき、鼻面や体を撫でたりできるこのエリアは、乗馬どころか馬というものにまったく触れたことのない参加者にとっては、またとない第一歩の経験になったようでした。「馬はどうやって寝るんですか」といった初歩的な質問にも、横にいるスタッフが丁寧に答えていました。

博物館、その他

競馬博物館もこの日は自由に見学可能 暑さ対策のために水分補給を呼びかけ

博物館

この日は東京競馬場内の競馬博物館も開放されており、参加者たちは就業情報集めや厩舎エリアでの体験の合間に立ち寄って、今年のダービー馬ディープブリランテ号の勝負服や鞭、近代競馬150周年記念「名牝たちの系譜」や「わが国の偉大なる種牡馬たち」といった展示を見学していました。

その他

休憩エリアは建物からコース側に出たフジビュースタンドにも設けられました。初めて東京競馬場を訪れる参加者は、芝コースを一望できる席でその壮大な光景に圧倒されているようでした。また、メイン会場内と厩舎エリア前の2ヶ所ではドリンクを無料で配布、暑さで体調を崩すことないよう水分補給を呼びかけていました。

終了

あっという間に過ぎていった6時間 ブースには最後まで話をする参加者の姿

イベントは10時から16時と6時間行われますが、その間、16のブースを回りながら講演も聞き、厩舎エリアでのプログラムに参加していると、時間はあっという間に過ぎていきます。例年見られる光景ですが、終了時刻が近づいても、ライバルが少なくなった今こそラストスパートとばかりに、ブースで牧場スタッフとじっくり話をする熱心な参加者の姿が印象的でした。

ブースを出していた各牧場によると、参加者の傾向としては1年目は転職を考える社会人が、2年目は大学生が多かった印象でしたが、今年は高校3年生の参加者が目立ったとのこと。また、馬の仕事についてまずはここで一から知りたいという参加者は減少傾向で、すでに相当の興味や情報を持っていて、より突っ込んだ話を聞きたいという方が増えているとのことでした。
ある初参加の牧場は、これが雇用に結びつくかどうかは初めてなのでまだわからないけれど、今後の人材育成のための貴重な話が聞けたと思う、と語ってくれました。参加者だけでなく、牧場側もまた、このイベントを最大限に有効活用しようとしているのです。そしてBOKUJOBがこうしたフェアを通じて目指しているのは、そんな両者の架け橋のような存在になることなのです。

過去のレポート