2024/02/13
JRA日高育成牧場です。
2022/09/08
9月に入りアブも少なくなり、放牧地の馬たちは快適そうに映ります。日高育成牧場では8月下旬から9月上旬にかけて、今年生まれた子馬の離乳を順次実施いたしました。
写真1.離乳を終えた子馬(赤□)と離乳を控えた親子(赤〇)が混在する放牧地:離乳を終えた子馬たちと離乳を控えた親子の群れを見ると少し距離があるのがわかります。
まず、離乳の意義について考えてみたいと思います。野生環境下では、出産の1~2ヶ月前になると、徐々に母子の距離が離れていき、子馬の哺乳が見られなくなるといわれています。このことは、離乳が行われるのは母馬が次の出産準備を行うため、つまり、次に生まれる子馬に十分量の母乳を与えるために「泌乳器を休養」させる目的のためと考えられています。
一方、サラブレッド生産牧場の離乳の実施時期は、概ね5~6ヶ月齢というのが一般的です。1歳馬の売却状況による放牧地や空き馬房の関係から、牧場によっては7~8ヶ月齢と遅い場合もあるようですが、いずれも野生環境下よりは早い時期に離乳が行われるということになります。
今回は「離乳に適する時期」について触れてみたいと思います。離乳する際に考慮しなければならないことは、子馬が「精神面」と「肉体面」の両方において十分に成長していることです。
「精神面」においては、子馬が母馬から離れてもストレスを感じなくなっているかどうかということです。以前の本ブロブ(https://bokujob.com/blog/article/2022/jra-85.html)でも触れたように、生後3週齢までの「母子間の距離」は約5m以内に留まっていますが、それ以降は徐々に距離が広がり、14週齢以降は約15mに達し、それ以降はほとんど変化しないことがわかっています。
また、「他の子馬間の距離」は「母子間の距離」とは反対に、16週齢以降は約30mに達し、それ以降はほとんど変化しないことがわかっています。
つまり、16週齢になると母馬から離れ、子馬同士の群れでも精神的に安定する時期、すなわち精神面の離乳を迎えることが可能な時期と推測されます。
図1.16週齢ごろになると母馬から離れ、子馬同士の群れでも精神的に安定します。
一方、「肉体面」はおいては、子馬が母乳に頼らなくても発育に必要な栄養を飼料から摂取できるかどうかということです。生後2ヶ月齢から徐々に母乳からの栄養供給が減少するため「クリープフィード」と呼ばれる離乳食を与えなければなりません。そして、離乳前には発育に必要な1~1.5kgの飼料を自ら摂取できるようにならなければなりません。この養分要求量を満たす飼料を子馬が摂取できるようになる時期は16~18週齢前後と考えられています。
写真2.「クリープフィード」を摂取する子馬:子馬の鼻先しか挿入できない飼桶を使用するなどして、母馬が摂取しないようにします。
このように、「精神面」と「肉体面」の両方を考慮した場合には、離乳の時期は早くても「4ヶ月齢以降」と考えなくてはなりません。また、成長面を考慮すると、体重が「220kg以上」であることも離乳の条件の一つともいわれており、これらを勘案すると「5~6ヶ月齢」が離乳の適期と考えられています。さらに、「7月中旬から8月中旬まで」は気温が高く、アブなどの吸血昆虫が多いため、離乳後のストレスを考慮すると、この時期を避け「8月下旬以降」の離乳が推奨されます。
次号では、JRA日高育成牧場で実施している "母馬を数頭ずつ複数回に分けて群れから引き離していく"「間引き法」と呼ばれる離乳方法と離乳後の「コンパニオンホース」の導入について触れてみたいと思います。