2024/02/13
JRA日高育成牧場です。
2023/09/14
前回に引き続き、海外の競馬について触れてみたいと思います。今回は、欧州と米国の競馬スタイルの相違点、さらに、日本は両者の良いところを巧みに取り入れている点について触れてみたいと思います。
欧州と米国の競馬スタイルの相違は、競馬の起源の相違に起因していると考えられています。ご存じのように、競馬は英国が発祥の地であり、貴族同士が自身の所有馬を競わせる「2頭のマッチレース」が起源となっているため、特に英国では競馬場の形に関して固定概念はなく、自然に芝が生えている地形をそのまま利用し、ゴール付近に観客席を作ったというシンプルなものとなっています。
急勾配の下り坂から上りに転じて観客席前のゴールに向かうエプソム競馬場の直線
また、貴族競馬に起源をもつため、競馬場は「社交の場」としても重要な役割を担って発展してきました。つまり、「馬券発売」を重視していないため、「ブックメーカー」と呼ばれる民間賭け業者が馬券を発売するというスタイルが根付いています。そのため、馬券発売による収入を競馬産業に還元することが困難なため、競馬の運営をスポンサーに頼らなければならない点が課題となっています。
英国の競馬場において馬券は「自分の狙う馬」の「オッズが最も高いブックメーカー」で購入するのが一般的です
一方、米国では貴族のための競馬ではなく、庶民の娯楽として発展したため、観客席から競馬の一部始終を見ることができるように「トラックコース」で実施し、さらに芝コースよりも管理が容易なダートコースがメインになったと考えられています。また、広大な国土であるがゆえに、西海岸、中部、東海岸等、それぞれの地区で勝ち上がったその地区の代表ともいえる馬が、ケンタッキーダービーやブリーダーズカップで雌雄を決するという構図を作り上げ、自身の地区代表の馬を応援するというスタイルに誘導し、エンターテイメント性をより高めているように思われます。
米国馬産の中心地ケンタッキー州ではなく、カリフォルニア州産馬であった「カリフォリニアクローム」は、地元カリフォルニア州の「クルーミー」と呼ばれる熱狂的なファンの後押しを受け2014年ケンタッキーダービーを制した(写真はアロースタッドホームページより)
以上の点から考察してみると、日本は「ダービー」を頂点とする英国の「3歳クラシック競走」というスタイルを模倣しているように、競馬発祥の地である「英国競馬」に倣いながら、エンターテイメントという側面では米国競馬のスタイルも上手く取り入れたスタイルを巧みに作り上げたと考えられます。また、日本競馬の最大の特徴は、馬券発売による収入を競馬産業に還元して、内国産馬主体の競馬を実施していることといえます。
調教に関しても、40年前は競馬場やトレーニングセンターにおいて、米国式のトラックコースでの調教がメインでしたが、欧州式の坂路コースを取り入れるために、人工的に坂路コースを作り上げ、現在では「欧州式の坂路調教」と「米国式のトラック調教」を馬の状況に応じて使い分けるというスタイルが一般的となっています。
このように、現代競馬はそれぞれの開催国によって異なっており、そのスタイルが確立されていることから、各国の競馬はその国の競馬スタイルに適した馬の選抜レースという側面が強くなっています。そのため、その国に適した種牡馬や血統というものが固定される傾向、すなわち血統の飽和状態に陥ることが危惧されているともいわれています。
過去には欧州血統のナスルーラが米国で大成功し、近年では、米国で活躍したノーザンダンサーが欧州で、米国で活躍したサンデーサイレンスが日本で大成功を収めたように、今後も必ず血統の拡散がさらなる競馬の発展に寄与するとともに、それが各国の競馬をよりエキサイティングなものにすると推測されます。
米2冠馬サンデーサイレンスは米国での種牡馬としての評価が低く、日本で種牡馬生活を送ることになり、種牡馬としての活躍は日本競馬の発展に多大に寄与した(JBIS-Searchホームページより)。
一方、種牡馬ばかりが注目されがちですが、近年は繁殖牝馬の各国から日本の輸入も盛んに行われていることから、実はこれらの繁殖牝馬が血統の拡散に寄与しているという点も注目すべきであると考えています。
いずれにしろ、これからも日本の競馬が発展していくことに微力ながら、尽力できればと感じた海外出張でした。