どんな馬でも任されるように、自分の技術を上げていきたいです。
育成担当 黒川 和司さん
日高優駿学園・卒業
谷川牧場(浦河町)勤務
私が働いている谷川牧場は明治45年創業の歴史ある牧場で、ダービー馬タケホープやオークス馬チョウカイキャロル、ダートでGIを制したサクセスブロッケンを生産しています。また、種牡馬として名馬シンザンを繋養していた牧場としても知られています。
牧場は、競走馬の生産と育成をしており、私は育成スタッフを担当しています。
仕事は基本的に朝5時からで、まず馬をパドックに放牧し、水桶を洗ったり、馬房掃除したりして、一旦上がります。
朝食を含めた休憩後、仕事を再開し、午前中は主に馬の調教をつけます。前半はBTCの調教施設で騎乗し、後半は牧場内のコースで騎乗することが多いです。
2時間ほど昼休みをとり、午後は1時30分から再び馬の調教をつけます。1日に何頭も調教するので、乗る前に必ず馬の個性や、調教の内容を確認しています。過去に、牧場でその馬の兄姉を育成していれば、そうした情報も重要になります。
調教がひと段落すると、夕方頃は馬の手入れや故障馬の治療、脚元のチェックをします。
午後5時前にスタッフが集まってミーティングをして、今日の仕事内容と明日の予定を確認し、一日の仕事は終わりです。月に一度、夜飼いの当番週があり、その週は夜も仕事があります。
その他、セール期間中の上場馬馴致や引き馬、調教師・馬主の方への馬見せも担当します。
中学1年生の時に、家族で札幌競馬場に行ったのがキッカケで、競馬の魅力を感じました。実家は競馬の仕事とは無縁だったのですが、たまたま札幌競馬が開催中で、様々なイベントもしていて、家族で行こうということになったのです。
初めて競馬場でレースを見ると、馬の走るスピードが速くて、その迫力に圧倒されました。レースの攻防や、ウイナーズサークルでの優勝馬や騎手を見て、格好良いなぁと思いました。
それ以来、競馬中継を見たり、「ダービースタリオン」や「ウイニングポスト」といった競馬ゲームをしたり、どんどん競馬を楽しむようになりました。ちょうどウオッカが活躍していた頃でした。
中学2年生の時は、家族で日高まで旅行して、牧場で馬を見ることもありました。もともと動物が好きだったこともあり、少しずつ馬の仕事についても興味が募り、中学3年生の進路相談の時には、「馬の仕事をしたい」と決意していました。
そこで当時、馬について学べる専門学校としてあった「日高優駿学園」の存在を知り、受験に合格して入学。3年間、馬の接し方や騎乗訓練、座学で馬の知識を得ました。
また、民間牧場での研修機会にも恵まれ、そのうちの一つだったのが、現在働いている谷川牧場です。谷川牧場では、スタッフの皆さんが明るい方ばかりで、熱心に騎乗指導いただき、自分の技術を少しずつ伸ばすことができました。加えて、牧場のアットホームな雰囲気にも魅力を感じ、将来は就職したいと考えるようになりました。
牧場の一員として自分も手がけた生産馬や育成馬が、競馬場で活躍してくれるのが何より嬉しいです。もっと言えば、自分が触っていた馬がレースに出走し、競馬中継で映るだけでも喜びを感じます。
2016年には、調教した一頭のナムラシングンという馬が菊花賞トライアル・神戸新聞杯(GII)に出走し、関係者として現地観戦することができました。
牧場では、グレードの高いレースに生産馬が出走する時は、一部のスタッフも応援に行ける機会に恵まれます。その時は、初めて関係者席で見ることができ、すごく緊張しました。
レースは敗れてしまいましたが、競走馬として歓声を受けているナムラシングンを見て、立派に育ったなぁと思いましたし、更に仕事への意欲が上がりました。
2014年の門別競馬場では、自分も調教をつけていたティーズアライズという生産馬の重賞制覇に立ち会うことができ、初めて口取りに入ることができました。ゴールの時は絶叫していましたね(笑)
口取り写真は牧場の休憩室に飾ってあるのですが、いつ見ても誇らしい気分になります。
沢山ありますが、自分の不注意で馬に危ない目に遭わせてしまったことですね。
学校の授業で馬についての基本を学んできましたが、学校の馬は乗用馬ですから、人に慣れた大人しい馬が中心です。しかし、牧場に入ればそうした馬ばかりとは限りません。中には気難しい馬もいますし、最初は自分の未熟さでヒヤッとする場面があり、ケガもあり、落ち込むこともありました。できるだけ不注意がないように、油断しないように気を付けて、仕事をしています。
馬がリラックスできるか、人を信頼できるかどうかなどは、日頃接しているスタッフ次第でもあり、それがうまくいかないと、人馬のケガにもつながります。
だいぶ仕事も慣れてきましたが、今後もわからないことは先輩に聞いて、常にしっかりと馬をコントロールできる力を身につけたいです。
馬の気持ちを考えることですね。
例えば、馬が怖がっているとか、嫌がっているとか、そうした場合は強引な対処で解決せず、それがどうしてなのまず考えるようにします。
馬の気持ちを想像して、原因を探っていくことが大事で、それがわからないままだと、馬はまたどこかで怖がったり、嫌がったりを繰り返し、なかなか成長することができません。
それから、危険な仕事は一人ではしないことです。一人でやり遂げられる仕事は効率的で早いですが、安全かどうかは別問題で、人馬のアクシデントにもつながります。
馬にとって初めての体験や苦手とする状況、スタッフにとって難しい技術を求められる場面では、人数をかけて行います。
馬を一人で見ているのと二人で見ているのでは、瞬時の情報量が全く違い、とっさのことでも対応できます。なので、ここは一人でできる、ここはできない、という判断は重要だと思っています。
好きなことを仕事にできて、幸せに思っています。少しずつですが、仕事ができるようになり、担当させてもらえる馬の幅も広がってきました。
牧場で乗っている馬は、もちろん全てが期待馬で、どの馬にも勝ち上がって欲しいと調教していますが、中でも、素晴らしい背中の馬を担当することがあると、それは格別な気持ちを味わいます。
そうした才能あふれる馬も含め、どんな馬でも任されるように、自分の技術を上げていきたいです。
私のoffStyle
仕事を離れて、一人のファンとして馬券を買い、レースを眺め、気楽に競馬観戦できる時間も好きです。