人は片想いで終わることがありますが、馬は愛情を注げば必ず返ってきます。
育成担当 加藤 太生さん
さいたま市立大宮西高等学校卒業、アニマル・ベジテイション・カレッジ卒業
三嶋牧場調教部門(浦河町)勤務
三嶋牧場は、生産から育成、調教を行っている総合牧場で、私は調教部門で働いています。主な仕事は育成馬の調教や騎乗馴致、厩舎作業全般で、調教はBTCの調教施設を使って行います。
1日の仕事は午前4時30分に始まります。BTCの施設を調教で使っている牧場の中では、かなり早いと思います。1年を通じてこの開始時間は変りません。そこから馬をウォーキングマシンに入れて馬房掃除を行い、5時20分ころから6時まで一度休憩に入ります。そして6時から調教を開始します。1鞍30分から45分くらいかけて行い1日平均5鞍の調教をつけます。乗り鞍の間隔も短くて9時30分くらいには調教が終了します。その後、手入れや掃除を行い10時に30分間の休憩に入ります。そして飼い葉づくりなどを行い、11時20分頃に昼休憩に入ります。午後は2時30分から始まり、飼い葉を与えて馬房掃除や翌日の準備をして4時前には終了します。早く始まっている分、終わるもの早いですね。
埼玉県出身で、身近に馬はいないし親も競馬を見ていなかったので、なぜ馬を好きになったのか、はっきりと覚えていないのですが、小学1年生くらいの時に親に競馬場に連れて行ってほしいと自分から言ったみたいです。その頃から競馬を見だして、中学3年生の時に乗馬クラブに通い始めました。その段階で将来、馬の仕事に就くことを決めて、高校も乗馬クラブに通い、卒業後は馬の学校のアニマル・ベジテイション・カレッジに進むことも決めていました。アニベジでは2年間、馬場馬術を学びました。乗馬の楽しさを知って大会にも出たいと思っていましたし、基礎となる馬場馬術の技術を身に付けておけば、今後どのような馬に乗っても対応できると考えたからです。学校では、あまり人を信用していなかった馬を一から馴致して大会に出られるまでの乗馬に育て、自分が卒業した翌年には後輩がその馬で全国大会に出ました。失敗や成功体験を重ねて馬を作っていく事を学べましたし、自分自身も卒業前に別の馬で全国大会に出ました。そして、最初から決めていた競走馬の世界へ進みました。就職先は、成績が伸びきった場所ではなく、これから伸びていくと感じた三嶋牧場を選びました。上司に馬術経験者も多くて、すごく自分に合っています。
醍醐味は、馬に愛情を注げば必ず返ってくることです。人間の場合、いくら相手が好きでも片想いで終わることがありますが、馬の場合は必ず返ってきます。馴致も、最初の頃は馬と喧嘩をして仲が悪くなって、馬もイライラするし、僕も感情的になっていましたが、フレンドシップというか愛情を注ぐことにフォーカスし始めてからは、馬と良い関係を築けているのかなと思います。馴致をしていると、その馬にとって自分が初めて乗せた人間になるわけですから、その馬がレースに出ているのを見ると嬉しいですね。
大変なことは、その愛情を注ぐことで、言葉ももちろん交わせませんし、どう愛情表現していくかが難しいですね。力では負けるので、いかに喧嘩をせずに接するかを考えています。1日5鞍ほど騎乗しますが、毎日が失敗の連続だと思っています。100点満点なんて1回も出ないので、毎日その失敗を改善して1頭1頭に寄り添って翌日に繋げていきたいですね。
感情に左右されない事です。上手くいかない事ばかりですから。あと馬も日によって機嫌の良し悪しがあります。鞍を乗せる時に分かるんです、その日の馬の機嫌が。そこを分かってあげて接するようにしています。大きいから錯覚しがちですが、誕生してまだ1年や2年なので毎日機嫌に左右されるのは当たり前で、そのことを忘れないようにしています。そのためにも自分自身の精神の安定は必要だと思います。
スプリンターズSを勝ったルガルの育成を自分がメインで担当していたので、G1馬を知ってしまったというのはあるのですが、実は乗り味からダートの長距離馬だと思っていたんです。しかし実際は芝の短距離で活躍していて、自分の感覚と真逆でした。今後は馬の適性をしっかり見抜けるようになりたいですね。
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