2024/02/13
JRA日高育成牧場です。
2023/06/12
6月に入っても、最低気温は10度を下回る日も散見され、朝夕は肌寒く感じる浦河ですが、放牧地の母子を見ていると、馬たちにとっては吸血昆虫に悩まされることもなく、一年で最も過ごしやすい季節のように思われます。
写真1. 一年で最も過ごしやすい季節である早朝の放牧地の様子
多くの生産牧場では、出産を終え、種付けも終盤を迎えている時期となっています。また、受胎確認の朗報に安らぐ間もなく、夏にかけての重要な「牧草収穫」に追われる時期でもあります。
牧草収穫作業は、天気次第ですが、概ね4~5日間要します。昨年はオホーツク海高気圧の影響による「蝦夷梅雨(エゾツユ)」に悩まされ、良好な牧草を収穫するのに苦労いたしました。十分に牧草を乾燥することができない場合には、「ラップ牧草(発酵牧草)」での収穫という方法もありますので、概説いたします。
写真2.採草地に置かれた「ラップ牧草」
北海道の夏の風物詩として、採草地に白や緑のフィルム包装された大きな円柱状の物体(写真2)を目にすることがあると思われますが、それこそが「ラップ牧草」です。ラップ乾草は、ロールベーラーを使用して出来上がったロール乾草を「フィルム包装」して完成します(動画1)。通常の乾草とラップ牧草の栄養面における差はほとんどないようですが、ラップ牧草は通常の乾草よりも嗜好性が高いという利点がありますので、今後も積極的に実施したいと考えています。
動画1.ロールベーラーを使用して出来上がったロール乾草をフィルム包装して「ラップ牧草」が完成
さて、今回は前回の記事(https://bokujob.com/blog/article/2023/jra-96.html)の続編として、その年に出産していない非分娩馬(空胎馬)に泌乳を誘発する手法について概説いたします。
写真3.乳母として白羽の矢が立った功労繁殖牝馬
今回、乳母として白羽の矢が立ったのは、現在は繁殖生活を引退している16歳の牝馬です。彼女はこれまでに7頭の産駒を生み、母性が非常に強く子煩悩である姿を見て、有事の際に乳母としての役割を十分に果たしてくれると期待して繋養していました。実は、7頭の産駒のうち5頭がJRAで勝ち上がり、合計9勝をあげている功労馬でもあります。
泌乳誘発は、「黄体ホルモン製剤」、「エストラジオール製剤」、「PGF2α製剤」、そして泌乳関連ホルモンとして知られているプロラクチン分泌を促進する「ドパミン受容体拮抗薬」を投与して実施しました。
さらに、ホルモン処置を行った翌日から搾乳して、乳房に刺激を与えます。これによって、乳房は経時的に大きくなり(写真4)、処置開始から1週間経過後には、1日200ml程度の乳量を得ることができるようになりました(動画2)。さらに、乳母として子馬に導入する前日にあたる処置開始から11日目には、1.5Lの乳量を得ることに成功しました。
写真4.ホルモン処置による乳房の経時的変化(左から処置1、3、7、11日目)
動画2.ホルモン処置開始から11日目の搾乳の様子
一方、母馬が分娩時の難産に伴って死亡したため、孤児となった子馬に対しては、生育させるために人工ミルクを給与しなければなりません。哺乳瓶で給与する方法は、人に慣れ過ぎるというデメリットがあるため、早々にバケツに入った人工ミルクを人の手を介さずに飲む「バケツ哺乳」に慣らしました(写真6)。その甲斐あって、子馬は乳母導入までの間、「バケツ哺乳」によって概ね順調に成長していきました。
一方、母馬が分娩時の難産に伴って死亡したため、孤児となった子馬に対しては、生育させるために人工ミルクを給与しなければなりません。哺乳瓶で給与する方法は、人に慣れ過ぎるというデメリットがあるため、早々にバケツに入った人工ミルクを人の手を介さずに飲む「バケツ哺乳」に慣らしました(写真6)。その甲斐あって、子馬は乳母導入までの間、「バケツ哺乳」によって概ね順調に成長していきました。
写真6.「バケツ哺乳」の馴致の様子(左)、乳母導入まで「バケツ哺乳」で成長(右)
次回のブログでは、ホルモン処置によって泌乳を誘発した空胎馬の乳母の子馬への「乳母付け」について紹介いたします。