2024/02/13
JRA日高育成牧場です。
2023/05/16
4月末の桜の鑑賞シーズンも終わり、放牧地の青々とした牧草が眩しい季節となり、放牧されている馬も春の訪れを喜んでいるように映ります。
写真1.BTC調教場を背景とした「オバケ桜」(左)と「優駿桜ロード」の夜桜(右)
日高育成牧場では5月から親子の夜間放牧(15時~8時までの17時間放牧)を開始しています。7組の親子が広い放牧地で一緒に過ごしていますが、1か月前と比較すると親から離れて子馬同士の距離が近くなり、子馬同士が戯れる姿を頻繁に見られるようになりました。
写真2.4月初旬は母馬の傍で過ごす時間が大部分を占めていました。
写真3.5月初旬には子馬同士の距離が近くなってきました。
さて、今回は「乳母」について触れてみたいと思います。乳母が必要となるのは、分娩事故によって母馬が死亡したり、母馬が育子を放棄したり、母乳分泌量が不足し子馬の成長が停滞したりするケースが考えられます。10頭未満の生産規模である日高育成牧場においても、過去14年間で乳母の導入が必要であった事例は3件ありました。
本年の出産において、残念ながら1頭の母馬が分娩時の難産に伴う子宮動脈破裂によって死亡し、生後直後から子馬が孤児となる例が発生しました。子馬が孤児となってしまった場合には、人工哺乳での保育あるいは乳母の導入のどちらかを選択しなければなりません。
写真4.難産処置のため馬房ではなく処置室での出産となりました(左)
写真4.母馬を失って広い馬房に常に1頭で横たわっていました(右)。
写真4.難産の影響で虚弱体質となり横臥している時間が長いため、床擦れ予防の包帯を装着しています。
諸外国での乳母のレンタル費用は、イギリスでは1,000ポンド(約17万円)、ヨーロッパ各国もほぼ同等価格であり、さらにニュージーランドでは500NZドル(約4.2万円)と比較的安価であるため、海外では一般的に乳母の導入が選択されます。一方、我が国での乳母のレンタル費用は150万円前後と高価であることから、容易に乳母の導入を選択することができない状況となっています。この諸外国との乳母のレンタル費用の価格差は、日本においてサラブレッド競走馬以外の馬の生産頭数が諸外国と比較して非常に少ないこと、つまり、乳母として導入できる馬の頭数自体が不足していることに起因しています。
乳母の導入は、孤児となった子馬の健やかな発育のためには非常に利点が大きい反面、前述のようにレンタル費用が高額であるというデメリットがあります。一方、人工哺乳での保育は乳母の導入よりも費用を抑えられるというメリットがある反面、昼夜を問わない頻回授乳のための労働負担、さらに人に慣れ過ぎるとともに馬の社会性が欠如するというデメリットがあります。このように、乳母の導入と人工哺乳での保育は一長一短と言えます。
写真4.母乳の供給が断たれたため人工ミルクを給与しなければなりません(左)
写真4.孤児となり母馬ではなく、スタッフと1頭でパドックでの放牧に向かいます(左)
写真4.人工哺乳は人に慣れ過ぎるとともに馬の社会性が欠如することが危惧されます。
日高育成牧場では過去の子馬が何らかの事情によって孤児となった3件の事例においては、乳母の導入を選択しました。しかしながら、乳母の導入といっても、皆様が想像されている自身の子馬を出産した母馬を乳母として導入したのではなく、その年に出産していない非分娩馬(空胎馬)を乳母として導入しました。この空胎馬にホルモン処置を行って泌乳を誘発し、乳母として導入するという手法およびそのメリット等については次回のブログで紹介いたします。