2024/02/13
JRA日高育成牧場です。
2015/04/08
出産後、母馬の事故や子馬の虐待が起こった場合、人口哺乳または乳母を導入して子馬を育てる必要があります。通常、乳母は子馬を出産している(母乳が必要なため)性格が温厚な品種(ハーフリンガー種など)を用いますが、日高育成牧場においては、子馬を産んでいないサラブレッドをホルモン処置して乳母にする方法を行っています。しかし、これまでサラブレッドは繊細なところがあり、母親に子馬を受け入れさせるには少々困難を伴ってきました。
今回は、母馬が妊娠中に蹄葉炎を発症したので出産後の子育ては困難と予測されたため、予定日から逆算して約1ヶ月前から別のサブレッド牝馬に対してホルモン処置を開始(ホルモン処置をして泌乳するまで約2週間の準備期間が必要)して、乳母としての導入を試みました。
妊娠後に蹄葉炎を発症した母馬(ダンスウィズジェニ)。両前肢が痛いので、後肢を踏込んだ集合肢勢をとります。
母馬は蹄葉炎の治療のため栄養状態も悪化し出産も危ぶまれましたが、無事に初子を出産しました。母馬は出産翌日に子馬と離し、あらかじめ準備していた乳母用のサラブレッドと子馬を対面させました。なお、対面前に、乳母に対して枠場内で膣から手を入れて子宮頚管を刺激し、分娩時の感覚を誘発させました。また、乳母に鎮静処置を行い、鼻粘膜にメントールを塗布し嗅覚を鈍らせると同時に、子馬の馬服には乳母の糞尿をつけました。これまで、そのようにして乳母付けを行っても子馬の受け入れには時間を要しましたが、今回はあっという間に乳母が子馬を受け入れました。
子馬を受け入れた乳母(ワンモアベイビー)。ワンモアベイビーはJRAホームブレッドとして中央競馬で初勝利したマロンクンの母です。
今回、乳母として使用した馬は、これまでも子煩悩で母性が強いところがありました。そのような性質を持っていたためあっさりと成功したのかもしれませんが、この要因を科学的に解明することがわれわれの課題と考えています。今、関心を持っているのが、他の動物種で養育行動や社会行動との関連が知られている「オキシトシン受容体遺伝子(OXTR)」などの動物の行動と関連がある遺伝子です。近年、距離適性に関連がある「ミオスタチン抑制遺伝子」が注目されていますが、初期馴致の難しさと「セロトニン受容体遺伝子(HTR1A)」との関連等、「行動に関連する遺伝子」も徐々にわかり始めてきました。今後は、このような行動特性を持つ遺伝子を解明し、血液検査であらかじめ乳母適性の判別ができるようになればいいですね。今後の研究成果にご期待ください。