2024/02/13
JRA日高育成牧場です。
2022/04/13
前回のブログでは、人為的に管理されているサラブレッドでは80%が4月までに出産しているのに対して、野生状況下で飼育されている馬での85%が5月以降に出産しており、この理由については、本来、野生動物はより多くの子孫を残すために餌が豊富な春に子供を生むように発情期が設定されているからということを説明いたしました。今回のブログでは、なぜサラブレッドは1月に出産することができるのかということをテーマにしたいと思います。
馬は「長日性季節繁殖動物」に属し、春になると発情する動物です。一方、ヒツジやヤギ、身近なところではエゾシカは「短日性季節繁殖動物」に属し、秋になると発情する動物です。双方に共通することは、春に出産するように発情する季節を調節している点にあります。つまり、体が小さく妊娠期間が約半年のシカは秋に発情期を、体が大きく妊娠期間が約11か月の馬は春に発情期を迎えるような仕組みになっています。
〔図.1 動物種による妊娠期間の相違:いずれの草食動物も春に出産〕
「長日性季節繁殖動物」である馬は、春先に起こる日照時間の急激な延長を目からの光刺激として受け入れ、「視床下部」という神経器官からのホルモン分泌を促進することにより、メスのみならずオスも生殖機能を活性させるホルモンを「下垂体」から分泌することによって発情期を迎えます。つまり、北半球では馬の生殖機能が最も活発になるのは、夏至を中心とする5~7月ごろと考えられています。したがって、約11ヶ月の妊娠期間を持つ馬は、野生状況下では翌年の4~6月ごろに出産のピークを迎えるということになります。以上が、野生状況下で飼育されている馬の85%が5月以降に出産する理由です。
さて、本題のサラブレッドは1月に出産することができるのかということを説明します。近年のサラブレッド生産では、市場価格や早期育成に有利と考えられる1,2月の早生まれの馬が好まれる傾向にあります。本来の発情期が4~9月である馬に対して、「春先に起こる日照時間の急激な延長を目からの光刺激に反応して発情期を迎える」という特性を利用し、人為的に日照時間を操作することによって2月に発情期を迎えることが可能となります。この方法は「ライトコントロール」と呼ばれています。北海道のような極端な寒冷地においてさえも、繁殖牝馬に対してライトコントロール処置を行なうと、2月下旬までに70%、3月下旬までに90%が発情期を迎え、その後の発情周期に大きな乱れは認められず、受胎率が高いことも証明されています。
〔図.2 ライトコントロールによって2月に発情期を誘発することが可能〕
「ライトコントロール」の方法は、12月20日ごろ(冬至付近)から、昼14.5時間、夜9.5時間の人為的な日照環境を作ります。具体的には、朝は5時30分から馬房内の照明(蛍光灯等)を点灯させ、昼間は放牧して自然光を浴び、夜は20時まで馬房内の照明(蛍光灯等)を点灯させるというシンプルな方法です。注意点としては24時間照明し続けると効果はなく、一定時間の「夜」が必要ということです。
〔図.3 ライトコントロールによって昼14.5時間、夜9.5時間の人為的な日照環境を作る〕
〔図.4 24時間照明し続けると効果はなく一定時間の「夜」が必要〕
この他にも、発情を誘発するためのホルモン剤の投与、十分な栄養管理、十分な寝藁、馬体を温かく保つための馬服の装着など、生産牧場のスタッフや生産地の獣医師の努力によって、2月に発情期を迎えることが可能となり、早生まれの馬がこの世に誕生しているということをご理解いただければと思います。