2024/02/13
JRA日高育成牧場です。
2019/11/01
はじめに・・・このたびの台風19号、21号では多くの方々が被害にあわれました。本当に心が痛みます。辛い思いをされている方が多くいらっしゃるとは思いますが、どうか、周りの協力などを受けながら、一日も早く日常の生活を取り戻せるように祈っています。
落ち葉の季節
11月に入り、寒さも徐々に厳しくなってきました。木々は紅葉、道路、放牧地には落ち葉が積もり、時折吹く突風も肌に冷たく刺さる感じです。そんな中で日高育成牧場の育成馬、当歳馬、そして繁殖牝馬はそれぞれ元気に過ごしております。育成馬はセプテンバー入厩組も概ね騎乗するまでになり、全馬そろっての調教ができつつあります。当歳の半数は体重が300kgを越えるまでに成長し、馬らしくなってきたなあと言う感じです。これから寒さで地面も硬くなり、氷が張って雪が積もってくると、足元への影響にも注意しながらの管理となってきます。何事もなく過ごしていってほしいと願うばかりです。
たびたび話題になっている豚コレラ、アフリカ豚コレラ・・・。皆さんも一度はニュースなどで聞いたことがあるのではないでしょうか。私も情報を得るべく、10月下旬に開催された、家畜保健衛生所の方が集まって毎年実施している業績検討会に参加し話を聞いてきました。感染源となるイノシシ、小動物を中心とした野生動物の侵入をどう防ぐかが大切であり、それがどんなに難しいことなのか・・・いろいろ考えさせられました。そして私たちも決まりをしっかり作り、防疫対策を立てて、規則正しく行動しなければいけないことを痛感しました。豚コレラは、徹底的に対策を講じても、伝播力が強くて再発生することがあるそうです。これからワクチンの使用を含めた対応について、関係者で話し合いを重ねていくことになりそうです。またアフリカ豚コレラの場合は、ワクチン開発も難しいそうで、より徹底した対策が求められるようです。私たちが管理する馬の場合でも防疫対策は重要です。対岸の火事と思わず、しっかり管理をして伝染病から愛馬を守っていきましょう。
馬フォーラム オータムセール 当歳品評会
先月のことになりますが、機会をいただいて帯広畜産大学で開催された馬のイベントに参加してきました。JRAも何か協力できれば・・・いうことで、ターフィーの馬術ショーや乗馬体験などのイベントを開催しました。そのほか他団体による体験乗馬会、クイズラリー、馬の学校ミニ講義、馬の介在活動関連資料展示、馬の骨格標本展示などがありました。また夕刻には、馬の国際講演会と称して、フランスと韓国から講師を招いて、馬の利活用に関する講演も行われました。このような催しは、馬産地である北海道に特化するのではなく、いろいろな地域で類似のイベントが開催され、馬が今以上にいろいろな場所で身近な動物になるのが理想です。来年以降も様々な地域で馬のイベントが開催され、盛り上がることを期待したいと思います。
そして、市場では1歳馬最後のオータムセールと繁殖セールが開催されました。なかなかの好成績だったようで、1歳セール全体では昨年並みの成績だったとか・・・。また、浦河地区で毎年開催している当歳馬の品評会も先月末に行われました。今年は9頭の参加で、各牧場から選抜された当歳馬を見てまわりました。代表者の細かいコメントを聞きながら、いつも勉強になる品評会。今後も継続して実施してもらいたいと願っています。
見る触る透かしてみる
「先生、うちの馬、あしはれているんだけど、ちょっと診てくれる?」
そんな風に往診を頼まれるたびに、ドキッとしていた駆け出しの頃・・・。
病気の馬の診療では、競走馬ということもあってか、四肢の診察をする機会がとても多いです。市場の下見などでは、購買を検討している馬の屈腱部を触ったり、少し腫れている部分の状態を念入りに確認したり・・・なんて光景を見かけることが多いと思います。また、調教のあとや、レース前、レース後などでも、管理している調教師さんが肢を触って状態を確かめる場面も日常的に見ます。言うまでもありませんが、競走馬の肢は細くデリケートで、強い調教やレースではかなりの負担をかける部分ですから、ちょっとした変化でも見逃さず、触って異常がないか確かめることが重要になります。
そこで今回は、馬に関わる多くの人が、どんなところに注意して、どんなことを考えながら肢を触っているのか・・・ごく簡単に触れてみたいと思います。専門的な突っ込んだお話はいっさいしません。ごくごく簡単にまとめて書いていますので、どうぞ気楽に読んでいただければと思います。また、いつもどおり私独自の考え方が入ります・・・ご了承ください。
見た目
まずは見た目から・・・。前から横から後ろから大雑把でいいので、よ~く見ることです。先輩に習ったことをあれこれ考えながらだと、頭の中でうまく整理できないですから、ポイントを1つに絞って、例えば「いつもと比べて腫れているところがないか」という一点だけに集中して単純に観察してみましょう。腫脹の程度は極わずかの場合もあります。また個体差もあるので、普段から多くの馬を見て比較することで慣れる必要があります。少し時間がかかるかもしれませんが、アドバイスなどもらいながら、まずは目を慣らすことから始めてみてください。
やはり各部位で押さえておくポイントはあります。腕節や飛節では前面・・・。ちょっとした腫れでも見逃さないことです。骨折、感染症などが疑われるケースもありますが、些細な怪我が原因でも大きく腫れている場合もあります。また、紛らわしいケースもあって、前腕部や下腿部などに炎症があって腫れていたものが、時間が経って、腕節飛節に腫脹が下がり異常があるように見えることもあります。そして、過去に腫れを認めたことのある関節では、落ち着いてしばらくたっても、ひかずに残っていることもあるので、新しいものか古いものか見比べる必要があります。
管部では前と後ろでは、腫れの意味合いが大きく異なりますね。前方や側面の腫れではケガや骨の炎症などが疑われることが多いでしょう。しかし後ろの腫れでは、腱靭帯の炎症が疑われます。それぞれ腫れている箇所、程度、痛みなどを詳細に調べて、時に獣医師のアドバイスや治療を受けながら判断する必要があります。なので、前よりは後ろの腫れに注意して観察するべきですね。競走に大きな影響を及ぼす可能性のある屈腱や繋靭帯などがありますから、場合によっては超音波検査などで状態を詳しく知る必要性も出てきます。
感触
ひととおり見終わったら気になる部分をよく触ってみましょう。先に触れたように、市場の事前下見などでは、調教師や購買者の皆さんが、足元を念入りに触っている姿を見ますが、誰もが触った自分の感覚をとても大切にします。感じ方は人それぞれです。これも初めは人のアドバイスを聞きながら一緒に触って、第一に熱感を確かめ、続いて気になる腫脹の感触を確かめてみましょう。先ほど述べたように管部の後ろ側、屈腱、繋靭帯部分は特に重要です。そして、今はレポジトリーの提出も必須の時代ですから、レントゲン写真の確認をしっかりしつつ、腫脹した部位の感触を確かめます。
感触もいろいろな表現の仕方がありますが・・・例えば骨のような硬い腫脹、刺激が強すぎると破れてしまいそうなやわらかい腫脹、中に水が溜まっているような弾力のある腫脹、押すとへこんだままの腫脹などなど・・・。経時的に炎症がひどくなっていく途中の腫脹なのか、ある程度峠を越えて、炎症が治まっていく途中の腫れなのか・・・そのあたりの判断は非常に重要ですが、これらは日頃の経験がものをいうところです。どんな感触なら大丈夫なのか、要注意のときの感触はどんなものなのか・・・いろいろな馬を触って、人にも聞きながら、自分独自の感じ方を身につけましょう。
透かしてみる
透かしてみる・・・とは変な言い方ですが、これは、ある程度経験を積んだ人に勧めたいことで、要は「解剖」の勉強をしてもらいたいということです。骨の名前、骨の位置や部位の名前、筋肉や腱の名前、筋肉の位置や始まりと終わりの部位など・・・。沢山あって覚えるのも面倒くさい、難しいと思う人も多いですが、最初は自分の覚えられる範囲でいいと思います。運動に関係する部分に限定してしまえばそんなに多くはならないはずです。一度覚えきってしまえば、肢のよく骨折する部分や炎症を起こしやすい腱靭帯部分をより理解しやすくなるし、皮膚の奥が透けて見えるようになってきます。
少し、薄っぺらな内容だと思うのですが、とにかく一つのきっかけにしてもらえればという思いで書いてみました。見る、触る、透かす・・・これが大切です。今回は触れませんでしたが、蹄も馬にとっては重要な部分です。馬を見るときは、あわせて理解したいものですが、また、別の機会にお話できればと思います。
今回もお付き合いありがとうございました。