2024/02/13
JRA日高育成牧場です。
2018/11/03
馴致と馬場入り
早いもので11月・・・不安定な天候が続くこのごろですが、この原稿を書いている今日は穏やかな秋晴れです。
さて、本格的な馬場入りが始まった日高育成牧場の育成馬たち・・・。このブログがアップされるのは、ちょうど1ヶ月が経とうとしているところだと思います。厩舎単位での馬場入りをするようになったのが10月半ばでした。出だしの印象は、とてもスムーズだったと思います。担当者によれば、馴致騎乗の技術が上がっているだけでなく、年々、各牧場の当歳時からの管理技術が向上しているせいか、順調に進んでいる・・・とのことでした。自分が管理育成してきた馬がどのくらいの値で売られ、その後の競走成績はどうだったか・・・はっきりと結果が出る世界なので、生産する側は、毎年のことを振り返って反省し、来年に向けてどう改善していくか・・・の繰り返しです。他の牧場の管理方法も意識して横目で見ながら、また時には意見をくみ交わしながら、全体のレベルが上がっていくものだと思います。日高育成牧場もいろいろ試行錯誤を重ねながら、技術向上のために頑張っていますので、育成ブログなどでその様子を見ていただければと思います。
家畜保健衛生業績発表会
研究関係ですが、先月の下旬に、全道の家畜保健衛生所の獣医さんが札幌に集まって、業績発表会が行われました。家畜でよく問題になる感染症の発生状況の報告、大流行が起こった場合の対処方法についての報告、感染症を未然に防ぐための対策方法・・・などについて報告するものです。北海道では、飼育頭数の多い牛や鶏に関する報告が多くなりますが、日高からは馬の流産に関する発表がされていました。
また、講演会では「薬剤耐性を考える」と題して4名のパネラーにより、抗生物質が効きにくい細菌にどう立ち向かうかについての発表が行われました。薬物を使用する側の獣医師が、病気の動物を看護する側の飼養管理者が、正しい知識を持って対応しないと、薬剤耐性菌が増加して、感染症の蔓延で思わぬ事態となりかねないという内容のお話でした。とても重要な問題ですから、機会があれば、最寄りの家畜保健衛生所の獣医さんとディスカッションして勉強してみてください。
生産育成技術講座と競走馬に関する調査研究発表会・日本ウマ科学会学術集会
年末恒例のJRA主催、共催の行事が今年も行われます。浦河、門別では、今月19,20日に生産育成技術講座が、また来月3,4日には、東京両国にて、研究発表会・日本ウマ科学会学術集会が開催されます。馬取扱いの方も気軽に参加できるものですから、是非足を運んでみてください。詳しくはJRAのHPなどで検索してみてくださいね。よろしくお願いします。
小さくても顔がある
馬を扱う仕事をしていると、時に感染症の問題にぶつかることがあると思います。人には人特有の、馬には馬特有の感染症があります。また、人にもかかるし、馬にもかかる共通の感染症もあります。一口に感染症と称しますが、細菌とかウイルスとかに種類が分けられ、様々なタイプのものがあって、それはそれは小さすぎて肉眼では見ることのできない生物が、人や馬の体内に入り込んで悪さをするものです。私たちから見れば、どれもこれも同じに思えてしまうのですが、仮に人のように表現するとすれば、性格は様々で、住む環境も好みが分かれるし、いいやつもいれば、悪いやつもいて、いろいろな面で特徴が異なります。私たちの知る身近な感染症を一つ挙げるとすれば、馬でも人でもやはりインフルエンザでしょうか・・・。人では毎年流行しますね。馬でも日本ではこれまで2回の大流行を経験し、競馬が中止に追い込まれる・・・なんてこともありました。また馬の場合、生産地では馬鼻肺炎といって、流産を起こす厄介な感染症が有名ですね。これらの感染症の詳しいお話は別な機会で語るとして、今回は「独特な形、特徴」という点に着目したいと思います。今回は形や特徴がとっても個性的な・・・「破傷風(はしょうふう)」という感染症の菌を主人公にして話をすることにしましょうか・・・。
この破傷風という病気ですが、皆さん聞いたことはありますか?
人にも馬にも感染する細菌で、比較的深めの傷口などから、菌で汚染された土壌などを介して感染し、一定の条件で菌が増えると毒素を産生し神経症状を起こすものです。
さて、この破傷風菌。どんな「顔」(形ですね・・・)をしているのでしょうか?
皆さんは細菌の形は?と言われて、頭の中で想像する時、どんな形のイメージを持つでしょうか・・・。丸?四角?楕円形・・・多くの人はそんな形を思い浮かべるでしょうか。しかし模式図を見てもらうと驚くと思いますが、破傷風菌は、こん棒とか太鼓のバチのような形をしています。面白い形ですよね。で、注目してもらいたいのが、先っちょに付いている丸い種のようなもの。これは専門用語で「芽胞(がほう)」と呼ばれるものです。ここでは便宜的に卵のようなものだと考えてください。普通は感染症を予防するというと、しっかり手を洗う、消毒殺菌はしっかりと、なんていいますが、もちろんしっかりやっていれば感染症は十分に予防できます。先ほど述べたように、例えば手足に新鮮な深めの刺し傷があって、破傷風菌が潜んでいる土壌なんかに長時間手足を入れて作業など、幾つかの条件が重なると感染することがあります。破傷風菌は「土壌細菌」などと称されることもあるのですが、その理由は、この「芽胞」の生存力が強いことにあります。ほとんどの細菌は、適切な滅菌用の薬剤の使用や一定の以上の高さでの煮沸をすることなどで死滅するのですが、破傷風の場合は、菌体が死滅しても、「芽胞」が土壌中で生き残ることがあるんです。そして時間が経つと再び菌体になるのです。したがって、多かれ少なかれ、全国どこにでも潜んでいると言われている秘密はこんなところにあったのです。
細菌やウイルスの特徴を知ることが予防につながる
今回は「皆さんに細菌の怖さを知ってもらう」のが目的ではなく、
「皆さんにわかりやすく、細菌にもいろいろなタイプがあることを知ってもらう」ことを目的に、破傷風菌を取り上げました。
感染症の予防は、正しい知識を持たないで、人の噂話に惑わされて、勝手な解釈で闇雲にやっても効果がありません。今回の破傷風では、
「傷口が汚染された土壌に触れなければ大丈夫」
という基本的なことを知り、その対策方法を正しく取りさえすれば怖くないことがわかったと思います。このように細菌やウイルスには、それぞれ顔と特徴があるのです。感染力が強くて手ごわいのもいれば、適切な消毒、殺菌、滅菌やっておけば簡単にやっつけることのできるものもいます。ちゃんとやっているのに上手くいかないなんてこともあるでしょう。馬取扱いの皆さんも積極的に情報を得て、正しい知識を習得し、感染症対策を身に着けることが大切です。わからないときは、周囲と相談しながら、小さな敵の正体を暴いてください。必要以上に怖がらないで立ち向かっていきましょう。
(毎度のことながら、私独自の見解も多く含まれているので、感染症に詳しい獣医師の情報を必ず確認願います。)
今回もお付き合いありがとうございました。