2024/02/13
JRA日高育成牧場です。
2018/10/04
胆振東部地震
あの9.6から1ヶ月が経ちました。馬産地に近い北海道の厚真町を中心にして発生した地震は私たちを驚かせました。被災された方は、辛いことを抱えながら過ごしていることと想像しますが、協力を仰ぎながら、様々な障害を乗り越えているものと信じています。不安はしばらく続き、時には泣きたくなることもあるかもしれませんが、どうか肩に力を入れすぎず、周囲の励ましをうけながら、立ち直っていってほしいと思います。もちろん、悠長なことは言っていられないという方もいると思いますので、無責任に物はいえませんが、できるだけ早く、元どおりの生活に戻ることを願うばかりです・・・。
オータムセール
暑かった夏もどこへ行ったのか、浦河もすっかり秋色・・・どころか冬がもうすぐ始まるよ、といった感じの冷たい風が吹くこの頃です。そんな中、好調な1歳セールが続いていましたが、10月1~3日に開催されたオータムセールも盛況で終了しました。10月中旬にはJRA育成馬も全頭そろっての馴致調教がスタートです。とにかく、順調に行くことを願うばかりです。育成の様子は、JRAのブログにも掲載されますので、お手すきのときに見ていただければと思います。
秋の町民乗馬大会、学会
先月末になりますが、毎年恒例の浦河町民馬術大会が開催されました。障害飛越競技、部半運動、ジムカーナ競技、チーム対抗競技など、大人から子供まで幅広い年齢層の参加者が、和気藹々とした雰囲気の中で行われる乗馬大会です。終了後も表彰式、焼肉大会で盛り上がっていましたよ。
学会関係ですが、こちらも先月末に札幌で開催された北海道獣医師会主催の学会に参加してきました。熱の入った質疑応答の場面もあり、いろいろ勉強になりました。馬産地の獣医師もたくさん参加していましたので、どんな演題があったのかは、馴染みの獣医さんに効いてみるといいと思います。
温故知新
私がJRAに入会したのは、ちょうど昭和と平成の境目でした。今年は平成30年で来年からは新元号になるのですから、あっという間に時間が過ぎるものだなあと感じます。馬取扱い、獣医、装蹄師・・・馬の世界でも、いろいろな技術職と呼ばれる職種がありますが、いろいろな形で洗練された「ワザ」が継承されていくものですよね。一方で、時代の変化の中でいつの間にか消えていくものもあると思います。私は獣医職ですが、例えば皆さんにも身近で整形外科診療に欠かせない「レントゲン診断」一つをとっても、私が新人の頃は手現像で、現像液、定着液の調整をして暗室にこもって赤いライトを頼りに写り具合を観察しながら仕上げるなんていう面倒な作業がありましたが、今では撮影した瞬時に手元のスマホやパソコンに画面が写るのですから・・・。時代の流れについていくのも大変です。
競走馬や育成馬の馬取扱いの人の場合、いろいろな病気の治療がある中で、筋肉痛の治療や疝痛の治療で獣医師とかかわる機会が多いと思います。私と年齢的に近い(50代・・・?)方ならピンと来ると思いますが、臨床現場にいた頃、これらの治療で欠かせないものの一つが(電気)針治療でした。人と同じように、馬にも様々な疾病に効果があるとされる体のツボがあって、馬も症状に応じて針治療をしたものでした。皆さんの中で韓国ドラマの時代劇「馬医」を見たことのある方・・・いるのではないでしょうか。その中でも、針治療の場面がたくさん出てきます。もちろん今でも使われているものの、きっと私が診療をしていたころに比べると、実際に針を刺す治療は減っているかもしれません。しかしながら、今後すたれてしまうのか、再度見直されて流行るのかは不透明です。
針による治療方法の良し悪しを議論するのがここでの目的ではありません。昔を振り返るとこんな治療法が盛んに行われていて、その治療効果について考えてみたとき、こんな利点もあったのかと振り返る・・・また、次の世代の人に語り継ぐのも大事ことなのではないかと・・・そう思い針を取り上げました。今回は、ごく簡単にですが、疝痛の針治療を例に挙げて少しお話してみましょう。今でも専門で治療されている方もいらっしゃいますし、いろいろなやり方があると思いますので、いつもどおり、私独自のやり方、解釈であることをご了承下さいね。
写真を参考にしながら・・・まずは万能ツボ、百会(ひゃくえ)を探しましょう。馬の背中の中心、正中線と呼びましょうか、その線を、骨の感触を確かめながら背中から尾に向かって指で押しながら少しずつ後ろの進んでいってみましょう。ちょうど真横が腰角になるあたりまで進んでいくと、急にやわらかくへこむ所があるはずです。そこが百会になります。百会は動物によってその位置は異なり、例えば人は頭にあるようです。様々な治療に有効なツボとも言われています。まずはそこに1本刺すとしましょう。
次に通腸(つうちょう)です。いかにも疝痛に効果のありそうなネーミングですね。通腸は左右に2箇所あります。一つ目は腰角の骨だと一番感じる部分と、背中の正中線を垂直に結んだ線の中間にあります。そして二つ目は、腰角から地面と水平に前方に辿って、肋骨の骨を感じるところに達したら、そのポイントと正中線を垂直に結んだ中間にあります。通腸は一、二と称して左右で4ヶ所ありますから、百会との合計5ヶ所のツボに針を刺して、お灸をしたり、電気治療で刺激したりすることで、腸の動きを促すことができるとされています。文章で書くとすごく難しく感じますが、写真を参考にしながら、なんとなくイメージしてみてください。昔の馬の診療所では電気治療と同時にお灸もしていたので、治療室内が煙で充満していたのをよく覚えていますね。懐かしいです。
針を刺すときは位置だけ確認して闇雲に刺すのではなく、注意深く「しんかん」を確かめながら進めます。ツボに入っていれば、皮膚がぴくぴくっと反応するので、その感触を最低でも2回見つけながら、探りながら針を進めます。ツボに入っているときは、電気治療で針がピクピクッと良く反応し、外している時との動きの違いがよくわかりますし、何より馬が気持ちよさそうな顔をします。そのほかに私の師匠は、分水(ぶんすい)と言って鼻先にあるツボに刺したり、通腸の近くにある関元愈(かんげんゆ)というツボに刺したりして治療していました。私はそこまでやったことはありませんが、いずれも疝痛に効果のあるツボと言われています。まずはツボを刺激して、浣腸や輸液などの治療を平行してやっていました。
馬取扱いと針治療は、直接は関係ないですが、筋肉の位置や働き、臓器の位置を覚えるのと同時に、ツボの知識も頭に入れてことは決して損ではないと思います。ベテランの獣医さんをつかまえて、いろいろ教わるのも悪くないでしょう。皆さんの身近なことで言えば、馬装具が挙げられるでしょうか。どんどん進化して行っていると思いますが、きっかけがあれば、古い馬装具について調べてみて、どんな利点があって使われていたかを知るのも悪くありません。JRAでは、東京府中や横浜根岸に博物館もあるので、近くの方は訪ねてみてはいかがでしょうか?
「ふるきをたずねてあたらしきをしる」ですね・・・。
今回もお付き合いありがとうございました。