2024/02/13
JRA日高育成牧場です。
2018/09/01
育成馬入厩
市場は10月のオータムセールを残すだけとなりました。そんな中、本年度のJRAにおける1歳馬の購買は予定どおり進んでおり、日高および宮崎育成牧場では、サマーセールまでに購買した育成馬たちが入厩しました。日高入厩組は8月30日に、また宮崎入厩組は8月29日に北海道を出発し、8月31日に到着したようです。早速プレ馴致から取り組んでいく予定で、それぞれの馬のコンディションをよく観察しながら実施していくことになります。ブラッシング、パッティング、馬房内回転、号令、ストラップ馴致、引き運動などなど・・・。順調に行くもの、足踏みするもの・・・いろいろありそうです。9月から約7ヵ月半、長いようで短い期間ですが、4月のブリーズアップセールに向けてそれぞれの育成馬がどんな風に成長していくのか楽しみです。詳細はJRA発信の育成馬ブログなどで見ることができると思うので、注目していただければと思います。
離乳
一方、繁殖関係ですが、お母さんと子馬のお別れの季節を迎えました。離乳は概ね生まれてから6ヶ月前後、または体重が200kg前後に達したことを契機に実施しますが、そこは牧場の考え方もいろいろです。日高育成牧場では、上記を基準として、今年は8月に3回に分けて実施しました。夏は研修生がたくさん訪れるため、できるだけ多くの人に離乳の現場体験をさせるという事情もあります。その方法はいろいろですが、離乳が近づいたら、まず、リードホースの役目を担うベテランの雌馬を入れて慣らした後に、早く生まれた順に、放牧中に母馬を連れ去る方法をとっています。
離乳直後は、母馬、子馬ともに不安に陥りやすいです。母馬は乳房が張って痛みがあったり、子馬がいない不安があったりで熱を出したりします。また食欲も極端に落ちることがあるので、妊娠中の馬は注意が必要。子馬も不安で、必要以上に放牧地を駆け回ったり、食欲が落ちて体重が激減したりすることがあるので、注意して観察する必要があります。
母親に甘えていた子馬も、これからは若馬と呼ばれるようになります。大人に向けての第一歩ですね。馬取扱い初心者の皆さんが研修を終えて、指導者の元を離れて独り立ちするのと同じですね。厳しい冬を乗り越えて、たくましく成長してくれることを願うばかりです。
首を長~くして考えてみよう
今回は馬の長い首に関連して、いろいろ考えることにします。キリンほどではありませんが、馬もそれなりに長いですよね。そんな長い首だからこそ、気になることって・・・ありませんか?ごく簡単な内容で申し訳ないですが、筋肉のこと、呼吸のこと、そして食べることに関する気になること・・・の3点に絞って少し書いてみますね。へたくそで恐縮ですが、写真に添えた模式図も参考にしてください。要点は心得ているつもりです・・・(汗)。
意外に重い頭と長い首
アスリートである馬の診療をするとき、獣医師は「触診」をとても大切にします。同じ馬でも競走馬、乗馬など用途の違いをふまえて、頭の付け根から尻尾の付け根まで、順番に触っていきます。で、具体的に何処が筋肉痛になるのかなんですが・・・たとえばお尻。解剖学用語で言うと中臀筋(ちゅうでんきん)、半腱・半膜様筋(はんけん・はんまくようきん)という筋肉があって、そこがよく痛くなります。(俗に後ろ側の分を指して「べら」が痛くなる、なんて表現する人もいますね。)また、背中は特に飛越で負担がかかりやすい障害競走の競走馬で痛くなることが多いです。押すと目がカッと開いて、キュッと筋肉を硬くして痛そうにしますよ。そして、首。一番痛みを発しやすいのは上腕頭筋(じょうわんとうきん)という筋肉です。(「ハッキン」が痛くなる、と言う人もいますね。)疲労が蓄積すると、ちょっとつかんだだけで痛がります。首はとても長いので、頭の付け根から肩先のところまで、順番に丁寧に、押したりつかんだりして感触や反応を確かめますが、意外と頭の付け根が激しく痛くなることが多いです(模式図を参照)。
皆さんの中で自身の頭の重さってどのくらいだろうと考えたことがある人はいるでしょうか?頭って結構重いんですよ。なので、あの長い首で重い頭を支えるちょうど付け根の部分に負担がかかるんですね。走れば上下運動も加わりますからなお更です。また後肢は「股関節」(骨と骨)で体と肢がつながっているのは人と同じですが、前肢は人のように「肩関節」(骨と骨)ではなく、筋肉だけでつながっているのが馬の特徴で負担も大きいです。馬を管理する上で、この2点を常に頭に入れておくといいと思います。
実際に何度も触ってみるとわかるようになるのですが、馬は「痛い」とは言ってくれないので、押したりつかんだりしたときの硬さで判断することができます。先に書いたように、痛いとキュッと硬くします。その感触を自分の指に教え込むのは価値があると思いますよ。そうそう、痛いところを急に刺激すると、馬は悲鳴を上げる代わりに怒って蹴るので十分注意してください。また時々、触るのが嫌だとか、痛いふりをする馬もいるので、その辺も見破ることができればいいですね。そんなときは、こちらも痛くないところから触って、裏をかくのです。騙されないようにしましょう。
頭は重いだけでなく細長いのも特徴です(馬面ですね)。ということは、首も長いわけですから、物を食べたときや、息を吸うとき、食べ物や空気が胃や肺にたどり着くまでの距離も長いということになります。
皆さん小さいころ一度は鼻血を出したこと・・・ありますよね。多くの場合、鼻の周囲への刺激で、血管が傷ついて血が出ることが多いと思います。もちろん馬でも同じようなことはありますが、まれに調教中や競走中に、比較的量の多い出血をみることがあります。
人では、とりあえずティッシュを鼻の穴につめて、上のほうを見ながらじっとして、「まあ大丈夫かな」などとつぶやきつつ、安静にして様子を見ることが多いかも。ところが馬の場合は肺から出ていることがあります。ここでちょっと考えてほしいことが・・・。鼻の穴から頭と首の付け根にある喉の部分までが約40cm。そこから気管となり、肺の入り口までの距離は、馬の首の長さぐらいありますから、鼻先から通算すると、1m30~50cmくらいにはなりそうです。そんな奥で出血した血液を私たちは馬の「鼻血」としてみているのです。馬にとっては大変な出来事なので安易に考えないことです。そんな長い空気の道は、直接外気と触れ合っているので、何かの拍子で感染を起こすことも・・・。また、気管と肺の境目が少し低くなっていて、そこの部分に細菌がたまりやすいとも言われています。呼吸器の病気を起こしやすい馬は、馬房にいて牧草を与えるときは、吊るさず地面に置くことで、首を下げる機会を多くして、気管の細菌がたまりやすい部分が底になる時間を少なくするといい、なんていう人もいます。こうして考えると、解剖学的な知識っていうのも、とても重要なんだなと思いますよね。
食べ物の通り道と長い首
おなかがすいたとき、水やお茶を飲まずにおにぎりに夢中になってがっつくと起こるのが「のどづまり」ですね。人では胸をたたきながら慌てて水を飲んで「ああ、苦しかった」なんていって収まりますが、馬もこの「のどづまり」があるんですね。首が長い分食道も長くなっているので、慌てて食べたときに発生する確率は人より高いかもしれません。何も食べない時間が長ければ長いほど起こりやすいですから、特に競馬の直後、激しい調教の直後などは、水を十分に飲ませてから、少しずつ牧草や飼葉を与えるようにしましょう。私も何度も治療の経験がありますが、食道専用のホースを鼻から送り込み、首をたたきながら、口で吸ったり、水を送り込んだりを繰り返して、大変な思いをしなければなりません。注意して管理するように心がけましょう。
病気については、機会があればまた触れるとして、首が長いからこその特徴・・・いろいろありましたね。このように馬の体の特徴に興味を持って観察すると、いろいろな疑問がわいてくると思います。今回は首をターゲットにしましたが、他にも気になること、もっと詳しく知りたいことあると思います。そんなときは、なじみの獣医さんと話してみてください。
今回もお付き合いありがとうございました。