2024/02/13
JRA日高育成牧場です。
2018/01/12
平成30年 今年もよろしくお願いいたします!
暴風雪
今シーズンは本当によく雪が降りますね。道北の留萌では、平年の4倍の雪が降ったとか。天気予報を見ると台風のような等圧線の狭い、いわゆる爆弾低気圧のニュースを見ることが珍しくなくなってきました。昨年末も浦河は強風が吹いて大変な天候でした。倒木や飛来物など、馬への影響も少なくないですから、皆さんも十分に気をつけてください。そんな中でも日高育成牧場の馬たちは、悪天候に負けず頑張っているようです。室内坂路や室内トラックを使ってしっかり調教を進めています。ゲート練習も実施していますが、こちらも各馬の調教の進み具合にあわせながら順調に行われているようです。
生産地疾病等に関する調査研究
昨年末に日高地区およびJRA競走馬総合研究所の獣医師が中心となって実施している生産地疾病等調査研究の報告、打ち合わせ会議が実施されました。聞きなれない言葉ですが、馬の発育に影響を及ぼす病気の調査や研究を行うもので、3年ごとにテーマを決めて実施しているものです。
研究は大きく2つに分けることができて、1つは馬の中で流行ると困る伝染病に関する調査研究です。生産地では例えば子馬の下痢や繁殖牝馬の流産が大きな問題になりやすいです。ロタウイルス病、馬鼻肺炎と言った病気の名前を聞いたことがないでしょうか?発生状況はどうなっているか、早期に発見して診断をするにはどうすればいいか・・・そんなことを調査する研究です。もう1つは若馬の成長期に発生しやすい外科的な疾患に関する調査研究です。馬市場を見に行く人も多いと思いますが、最近は脚部や喉のレントゲン写真や内視鏡ビデオを撮って開示することが当たり前になっています。馬が成長する過程で発症しやすい骨の病気や喉の病気については、これまでの研究の積み重ねの中でいろいろなことがわかってきていますから、その時々でテーマを決めて調査研究を行っています。馬の病気は、理解することが難しい疾病も多いですが、生産者の立場で必要な知識を吸収していくことも大切ですから、機会を見つけて少しずつ覚えていきましょう。
寒さと昼夜放牧
今回は冬の寒い環境と昼夜放牧に関することをテーマにして少しお話してみようと思います。
もう25年ほども前のことになりますが、JRAの育成業務は函館競馬場、福島競馬場でも実施していました。時間も経過したので、知っている人も少なくなったでしょうね・・・。実は私も函館競馬場で執務した経験があり、育成業務にも携わっていました。残念ながら私自身、馬に乗る技術はないので、裏方専門ということで、収放牧と治療を担当していました。その頃はまだ若かったので、薄着でも寒さなんて感じなかったですね。風邪も引きませんでしたし。函館の冬は浦河や札幌とは少し違って、海と海に挟まれた場所に競馬場があるので、雪が真横から降ります。(おかしな表現ですが私はこう言います。)「そんな格好では寒いだろう。」と、よく周りからアドバイスされたものでしたが平気でした。放牧されている馬たちは・・・というと、こちらも若いせいか、放牧場を駆け回って元気に見えました。まあ、いずれにしても北海道の冬は厳しい環境であると言えます。
一方、日高の牧場では、近年昼夜放牧が当たり前になってきました。昼夜放牧とは1日のうちに馬房に収容して飼い葉を与えたり、手入れをしたりする数時間以外は、外に放しておく管理方法のことです。真夜中の予想もつかない事故の心配もあり、慎重な牧場もありますから、その良し悪しについては議論の真最中と言った方がいいでしょうか・・・。昼夜放牧の効果については、いろいろな角度から研究されていますし、また経験に基づいて様々なことを教えてくれる人がいると思うので、皆さんそれぞれで勉強して、効果について判断をしてもらえばいいと思います。
さてその昼夜放牧ですが、日頃、牧場関係者と話をする中で・・・
「昼夜放牧といえば暖かい季節・・・でも冬もやっている牧場もあるよね」
という話を耳にすることが多くなった気がします。
「冬は氷点下になるし、あまりよくないのでは?」
「冬は放牧時間が短い分、運動不足になりがちだから、意外といいかも。」
「馬は運動も大事だけど、寝ることも大事。そういう意味で冬は昼放牧でいいのでは?」
「放牧時間が短いとストレスもためやすいし、冬に昼夜放牧していいならやってみたい。」
いろいろな声が聞こえてきます。どれも正しいように聞こえたり、どうかなあ?と思うこともあったり・・・。日高育成牧場では、研究目線でいろいろなことを調べていますが、冬の昼夜放牧の効果についても調査しているところです。まだまだ、その有用性については検討中ですので、ひとまず横に置いといて・・・ここからは私らしく、馬はそもそも外に出るのが好きなのか?ということ意識しながら語ってみたいと思います。
馬は外が大好き
まずは、放牧直前の馬房での様子から・・・。健康診断の目安にもなると思うのですが、ほとんどの馬は小窓から顔を出しているはずです。その顔は「早く外に出たいなあ」「外は今どうなっているかなあ」と言っているかのようです。もし、顔を出していない馬がいたら気づかれないように覗いてみてください。投げ草を食べたり、うとうと眠ったりしているのもいると思うのですが、たとえば座って首を後ろのほうに向けて元気がなければ病気の兆候かもしれません。また、立っているけど、首がなんとなく下を向いていて目に元気がないときは、熱があるかもしれません。普段の様子との違いを知っておくべきでしょう。
さあ、ドアを開けて、引き手をつけて放牧の準備です。外に行きたい彼らはいろいろなパフォーマンスを見せてくれるでしょう。首を上下左右に振る、馬房の中をくるくる廻る、遠くを見て今か今かと思いつつじっとしている。中には、とてもプライドの高い馬もいて、自分の馬房に一番に入っていかないと壁をバンバン蹴ってアピールするのもいます。(馬房の前を通るだけでも「バンバン!」。そんなときは、「まず、誰よりも先に俺のことを第一に考えて、外に出せ!」言っているのだと思います。)
そして放牧場に・・・多くは集団で駆け回るでしょうね。狭い馬房から出られたことが何よりもうれしいのかもしれません。繁殖牝馬の場合は、お腹がすくのか、まずは牧草に群がるときもあります。また、放牧中の様子ですが、夏の暑い日、冬の寒い日で違いがあるのかと言われると、私は大きな違いはないと答えます。例えば、寒くなると冬毛が伸びて、暖かくなると自然と毛が抜けて、体温を調節しています。寒くて雪が降り風も吹いけば、彼らは無駄な動きをせずジッとしています。木陰やシェルターがあれば絶好の位置取りで避難して体力が消耗しないようにしています。夏の日差しが照りつけるときも同じで、湿度も高く暑くなれば、無駄な動きをせずに、日のあたらない絶好の場所に避難し、脱水症状にならないように水を飲む回数を増やします。繁殖牝馬は体が重たいのに足取りは軽やかで、大きなお腹をゆすりながら駆け回ります。まあ、出産1ヶ月前にもなると流石に動かなくなりますが・・・。季節に合わせて都合よく行動するようです。間違いなく、馬は夏だろうが冬だろうが、外が大好きだと私は思います。
冬の利点を見つける
馬が外に出るのが大好きなら、冬の厳しい季節ものびのびと放牧してやって、有効に利用したいものです。今後の研究の進み具合にもよりますが、何らかの形で科学的に「冬の放牧はこんなところが効果的!」と証明されれば面白いと思います。ポイントは幾つかありますが、繁殖牝馬の場合は、順調にお腹の中の胎子が発育しているかを客観的に診断できるか・・・が重要でしょう。今後は獣医学も進んで、簡単な検査で馬の成長具合がわかる環境が整い、冬はこうすれば大きく丈夫に育つという証明ができれば、放牧に対する考え方も変わってくるかもしれません。当歳馬の場合は、バランスよく成長しているかどうかが大切だと思います。明けて1歳となり、最終的に同じ大きさに育ったとしても、たとえば、初期に体重の増え方が早いものと遅いものでは、足元への負担が変わるので影響の仕方に違いが出ると思います。性差もあるかもしれないし、早生まれと遅生まれでは、生まれたときの自然環境が違うし・・・。個々の馬にあわせた適切な管理方法が考えられていくでしょう。冬の馬の管理の経験の積み重ねで、どんな些細なことでも、丈夫な馬をつくる、適切な分娩体制を整えるヒントになると思います。冬には冬のいいことがあるかもしれないので、否定から入るのではなく、普段の会話の中で、冬の放牧の良さについて話あってみてくださいね。
毎回、中身は薄いですが、今年もこんな感じで綴っていきますのでよろしくお願いします。今回もお付き合いありがとうございました。