2024/02/13
JRA日高育成牧場です。
2017/10/07
良きアドバイザーとして
9月は何かと自然災害が多い月であったりしますが、今年も台風18号が北海道に上陸してしまいましたね。被害にあわれた方・・・心からお見舞い申し上げます。
先月、日高育成牧場ではFC(ファームコンサルタント)研修の修了式が行われました。なかなか聞きなれない研修名ですよね・・・。例えば、ものすごく好きで興味のあることがあったとして、十分に理解していると思っていても、基本的なことで抜けていることがあって「聞きたくてもいまさら聞けないようなあ」と思っていることってありますよね。そういうことは、馬関係の仕事の中でもあります。「この子馬、順調に育っているんだろうか?どこを見て判断するのがいいのかな?」「とりあえず、こんな配合で飼葉作ってみたけど栄養は足りているのかな?」「正しい草地の管理法ってそもそもどんなことに気をつければいいの?」など、疑問はいろいろ湧いてくるけど、なんとなく聞きにくい、理解しにくいこと・・・多いと思います。そんな疑問を持つ牧場関係者にアドバイスをしたり、自ら先頭になって指導したりする人を養成する研修会がFC研修です。牧場関係者、飼料会社など若手職員を中心に、約2年の歳月をかけて子馬の成長を見ながら実施してきました。先月中旬にその「卒業式」があったんです。各自いろいろな知識と技術を吸収してそれぞれの職場に帰って行きました。今後は、それぞれの立場で良きアドバイザーとして活躍してくれることを願うばかりです。また機会があれば、今回行ったような研修の機会を持てればと考えています。
オータムセールも盛況のうちに終わって、日高育成牧場もようやく1歳馬が揃いました。馴致については、既に開始されており、先月末から進度の早い馬については、馬場での騎乗に入っているものもいます。とにかく人も馬もアクシデントがなく順調に馬が仕上がっていくように祈るばかりです。育成の様子についてはJRAのブログにも詳しく掲載されているので、是非ご覧下さい。
研究関係についてですが、9月は学会の多いシーズンで、全国各地で様々な分野の学術集会が実施されています。研究室のメンバーも発表や聴講をしてきたようです。馬取り扱い者のためになるような情報も吸収して帰ってきているはずなので、馴染みの獣医さんが近くにいて話が出来る人は、ためになる情報があったかどうか聞くのもいいと思います。
安心して見守るために
さて、今回のテーマは「安心して見守るために」です。生まれて間もない頃から離乳食を与えるようになるまでの子馬の様子について綴りながらお話したいと思います。馬関係に限らず、どんな仕事でも、必要な知識と技術は持っていればいるほど安心できるものだと思います。では、親子馬の管理をしていく中では大切なこととは・・・?近くで親子馬を眺めることが出来る方は見ながら読んでみてください。
放牧されている親子馬・・・。まずは、皆さんはどんな光景がお気に入りですかね?例えば、お母さんと後ろを懸命に追いかける子馬、静かにたたずむ母馬と乳を飲む子馬、仲間と戯れあう子馬とそれを見守る母馬・・・。いろいろあると思いますが、私の場合は、ぐっすりと寝ている子馬の横で母馬が草を食むこともなく、一点を見つめてじっと仁王立ちしている・・・そんな姿が好きだったりします。なんでしょう、子馬を無言で「守っているぞ」という雰囲気がずっしりと伝わってきて、実に逞しく、また暖かく感じるんですよね。何気ない光景だとは思いますが、きっと母馬はさりげなく子馬を守って、安心させているんだと勝手に想像しています。
でも、そんな母馬の苦労をよそに、子馬たちは無邪気なものです。気になるものには無防備に近づくし、興味あることは即座に真似をしてみたりします。しかし、そんな可愛い子馬も将来は競走馬になるわけですから、母馬による躾は大事ですし、私たち人間の最初の接し方もとても重要です。わがままに育ったり、変な癖が付いたりすると、あとあと人間が扱いにくい困った馬になる可能性があります。子馬が初めて見る人、子馬がその人に接して初めて感じることは、特に大切になってきます。親子馬が放牧している時、親子馬を引く時から様々な光景を観察し、親子の関係を理解することが大事です。そんなことを意識しながら環境づくりをしていくことで、馬も人も安心して毎日を過ごすことが出来ると思います。それぞれの牧場でノウハウがあるはず。まずは基本的なことをよく教わって、その上で新しい情報を入手して身につけることが大切ですね。
続、寝る子は育つ
前回も触れましたが、もう少しだけ掘り下げて書いてみます。人間の赤ちゃんもよく寝ますが、子馬も本当によく寝ます。親子馬は放牧直後元気よく駆け回ります。子馬もお母さんに一所懸命ついて行って、はしゃぎます。お母さんが草を食べ始めると、真似をして食べるふりをしたりします。お母さんが水を飲みに行くと、すぐさまついて行って水飲み場に顔を突っ込みます。多くの場合、群れで放牧されるので、子馬どうしで遊ぶ風景もよく見ることができます。いろいろなことをやって疲れたあと、お腹がすいたら乳を飲むのですが、そのあと崩れるように横になって眠ります。そして母馬の仁王立ちが始まります(草を食べている方が多いかもしれませんが・・・)。子馬はただ疲れて寝ているのではなく、寝ている間に成長ホルモンなど、体が大きくなるために必要な様々なホルモンが分泌されていると言われているので、重要な、大切な行動と捉えるべきでしょう。皆さんの牧場では、子馬が安心して寝られる放牧地、馬房などの環境が整っているでしょうか?今一度、細かいところまでチェックしてみてください。
それから、母馬の性格の把握も大切です。もちろん馬にも個性があります。例えば・・・
・威張るお母さん。親子馬たちは場所を不規則に移動しながら草を食みますが、移動するときに耳を絞って、他の母馬を威嚇しながら動く。自分の気に入ったところに他の馬がいたりすると追い払います。その子馬は困っているようにも見えます
・過保護なお母さん。子馬が少しでも離れると心配して寄ってくる。困るのは、子馬どうしで遊んでいる時によその子馬を追い払うことです。自分の子が心配でしょうがないんですね。この場合も子馬は困っているように見えます。
・放任主義のお母さん。自分が水を飲みたいときは子馬を置いて勝手に行ってしまいます。子馬どうしで何をしていようが、自分で草を食べることに夢中です。もちろん子馬が寝ている時も無関心。乳を飲ませることすら適当にやっているな、と思うくらい。子馬も寂しそうに見えます。
いろいろな個性を持つ親子馬の群れなので、その組み合わせや行動をよく観察することは、とても大切なことですね。そうかと言って、24時間観察することも無理ですから、ピンポイントでいろいろな情報を記録するのがいいと思います。親子馬が安心して過ごせる組み合わせを考えるべきでしょう。
また、体重の変化の記録、分析は特に重要で、いろいろな予測ができます。子馬の基本的な発育曲線なるものがあるので、例年と比べてどうなのか、ほかの馬と比べてどうなのか、種牡馬の違いでどうなのか、早生まれ遅生まれでどうなのか・・・などデータを積み重ねて理解するのがいいでしょう。体重を測れない環境なら、ボディーコンディションを取る手法もあるので勉強してみるのもいいと思います。子馬の体重が増えない・・・母馬の体重は?乳は出ている?実際に子馬は飲んでいる?いろいろな可能性を模索してみましょう。子馬にストレスはかかってないか?牧草や環境要因も影響していないか探ってみましょう。
離乳食
放牧環境に慣れ、2ヶ月もすると母乳だけでは栄養が足りなくなります。ここから、その栄養を補うための離乳食が始まります。こんなところも、開始時期は違っても人とよく似ていますね。クリープフィーディング・・・なんて言ったりします。北海道では、すぐに寒くなって長い冬がやってきますから、草以外の固形飼料の摂取に早めに慣れてもらって、体重が安定して増えていくようにしなくてはいけません。また、クリープの内容にも注意してください。あとで述べる機会もあるかもしれませんが、栄養が少しでも偏ると、病気になりやすいです。例えば馬の体の部分と足の部分の成長のバランスが良くないと、足が曲がってしまうなど、良くない変化が起こることがあります。そうそう、母馬自身の栄養バランスも大事ですよ。子馬が飲む乳の質に問題が生じたり、出が悪くなったりすることになる・・・。それからもう一つ。子馬がお母さんに離乳食を盗られないようにしてください!目を離すとすぐに食べられますから、日頃から対応方法を考えておきましょう。
とにかく親子馬が安心して過ごせる環境づくりが大事になります。今回も例を挙げるに留まりましたが、馬と人が安心できる条件について、みんなで考えて整理してみてください。この流れだと、次回は放牧管理についてお話することになりそうです・・・。
毎度、私なりの勝手な思いと解釈ばかりですが・・・どうぞお許しを。
今回もお付き合いありがとうございました!