2024/02/13
JRA日高育成牧場です。
2017/09/05
サマーセールの光る星
浦河はすっかり秋の景色。予想外に雨が続いた8月・・・でしたが、そんな中で行われたサマーセールは盛況でした。JRAの購買馬も月末に日高、宮崎に分かれて入厩完了。1歳馬が厩舎を埋めて、育成牧場らしくなってきたなという印象です。あとは10月のオータムセールが控えていますが、終了後に全馬揃うことになります。
さて、そのサマーセール。皆さんも注目したかもしれませんが、3日目に高校生が育てた1歳馬が登場しました。「よろしくお願いします!」と元気に挨拶をして入場。馬の仕上がりも良好でした。その勢いに押されたのか、予想を上回る複数の購買者から声がかかり、無事に落札されました。心配そうに見守る高校生たちも感激している様子でした。競馬で光る星のように輝きはばたいてほしいという願いをこめて「北翔(ホクト)」と名前をつけた、とのエピソードの紹介もありました。今後は元気に育成期間を過ごし、2歳デビューを果たし、競走馬の光る星となってほしいものです。
サマーセミナーの光る星
獣医畜産系学生の研修会も無事に終了しました。馬がターフに輝く光る星なら、こちらは馬の獣医師を目指す原石といったところでしょうか。種付けから出産、育成の過程の基礎を学びながら、妊娠馬の各種診断、親子馬の管理、放牧地の管理に関する実習を行いました。研究室スタッフが中心となり実施しましたが、熱心に講義で耳を傾け、実習に取り組む学生たちの熱意に負けないようにと、充実した指導が出来たようです。皆さんが目指している馬取扱い職と同様に、馬などの大動物を相手に仕事をする獣医師も、深刻な人手不足になっています。これからも大学では学ぶことができない馬に関する講義実習などの指導に積極的に取り組んで、一人でも多くの馬獣医師が育っていくようにサポートしていきます。今回実習に来た学生の中から、馬の生産、競走馬社会を支える光る星が現れることを心から願います・・・。
情報共有とチームワーク
さて、今回のテーマは子馬を守るための「情報共有とチームワーク」です。良かったらお付き合いください。前回は分娩までのことについて書きましたが、引き続いて、分娩直後の子馬についてのお話になります。
子馬を守るために、私たちは、目の前で起こる様々な出来事に素早く対応しなければいけません。そのために個々が必要な知識を習得するのは勿論のことですが、みんなで必要な情報や対処方法などを共有することも重要だと思います。日常生活の中でも予想もしていなかった出来事に会うことがあると思いますが、今回の話をきっかけにして、その情報の共有とチームワークの重要性を僅かながらでも感じ取っていただければと思います・・・。
最近の日本列島。非常に気候が不安定で、自然災害があちこちで起こりますね。時に多くの人が怪我をして、一度に多くの人が病院に運ばれます。現場の医師、看護師は一時的にパニック状態に陥りますが、テレビなどでドキュメンタリーを見ると、治療の順序を決めるために「トリアージ」という方法を使って冷静に対応していますね。緊迫した状況でも、ある規則に従い、みんなで協力して対応すると、様々な危険を回避することができます。
分娩直後の子馬
「分娩の1・2・3(ワン・ツー・スリー)」って・・・聞いたことある方はいますか?
・分娩1時間までに起立する
・分娩2時間までに哺乳する
・分娩3時間までに後産が排出される・・・です(時間配分は諸説ありです。)
人と違って、子馬は外部からの抵抗力が備わっていないまま生まれてきます。上述のようにある程度のタイムリミットが設定されていますから、複数の人でそれを認識し、協力しながら親子を守っていかないといけません。
さて、子馬が完全にお母さんのおなかの中から出ました。まずは呼吸確認です。子馬は胸の部分が通過すれば呼吸ができるはずなので、鼻や胸に触れて障害となっているものを取り除きながら確認します。そしてタオルなどを使ってある程度濡れた体を拭いてあげます。次にへその緒が切れたら、よく消毒して体を母馬の顔に近づけます。稀に親が子を認識しないことがあるので、その点をよく意識しながら介助します。母馬が舐め始めればひと安心ですね。
さて、ここからワン・ツー・スリー
ワン(起立)
産まれて15分もたつと子馬は立ち上がろうとします。何度も起立を試み、母馬は子馬の体をつついて励まします。概ね1時間程度で完全に立ち上がりますが、2時間以上経っても立たないようであれば、何らかの異常があるかも知れません。
ツー(哺乳)
立ち上がって余裕が出てくると、母馬の後をヨロヨロと追い始めます。そして本能的に乳房を探します。概ね2時間ほどで哺乳できれば問題なし。その刺激で腸も動き出し、胎便という腸の中の物質を排出(必ず確認して、形跡がなければ人為的に排出させる)します。後を追わない、母馬が吸わせようとしないなどして、3時間以上経っても哺乳できないときは人が哺乳できるように促すことも大切になってくるでしょう。
スリー(後産)
こちらは前回記載しましたね。異常に疼痛を認める場合や、4時間以上たっても胎盤が排出されないときは要注意。ちょっとしたことですが、出産後胎盤が垂れ下がって引きずる場合もあるので、上手に包帯などで縛るといいでしょう。
いずれの場面でもおかしいなと思ったら、獣医師や経験者の指導を受けて対処します。
初乳が危険回避の鍵を握る
さて、ここまでの流れの中で最も大事なのがやはり初乳です。初乳とは分娩してから最初に分泌される乳汁のことです。前述のとおり馬は人と違って、お腹の中で免疫、いわゆる抵抗力を獲得することができません。したがって生まれたての子馬は無抵抗の状態であり、素早く母馬から乳汁を介して抵抗力・・・いわゆる免疫を取り入れないといけません。ところがこの免疫物質も分娩後すぐに受けないと減少し続けると言われており、24時間経った頃にはほとんどなくなってしまいます。また子馬も体内での吸収能力を失ってしまうと言われています。そのため、すぐに初乳を飲まない子馬は虚弱になり、感染症にかかってしまう確率が高くなるのです。
私たちはこの初乳に関する知識を十分に理解しておかないといけません。例えば、
・あらかじめ母馬に必要な予防注射を打って、子馬のための免疫力をつけておく。
・子馬が初乳を飲めなかった場合に備えて、質のいい初乳を搾り保存しておく。
・飲めないと判断したら6時間以内に初乳を人為的に与える。
・獣医師に相談して、採血をしてもらい、十分に免疫を獲得しているか検査してもらう。
といったところを押さえておくべきでしょう。
じっくり親子を観察しよう
さて、ある程度の目処がついて落ち着いた生まれたての子馬とお母さん。とにかく事故でもあったら大変!しばらくは大事に馬房の中で観察するべきでしょうか・・・。いえいえ、そんな過保護な管理では子馬は虚弱になってしまいます。まずは、屋根付きの小パドックか、寝藁を敷いて子馬が休める場所を作った小パドックに暖かい時間を選んで1時間程度放牧することから始めましょう。しかし、環境の変化に順応するには時間がかかります。
・体温の変化
・体重の増減
・母乳の摂取状況
・吸入後の子馬の行動と乳房の状態
こんなことを毎日、じっくり観察しながら放牧の条件を変えていきましょう。
寝る子は育つ
さっきまではしゃいでいたと思ったら、いつの間にか寝ている・・・元気なさそうだな、大丈夫かな?・・・そんな光景を頻繁に見ることになるでしょう。寝る子は育つということわざは馬にも当てはまります。はじめのうちは実に4割以上の時間を睡眠に費やします。適度に運動して、母乳を飲んで、じっくり眠る。そんなことを繰り返して大きくなっていきます。成長ホルモンなどの物質が体内で作られ、バランスを整えながら大きくなっていくんですね。放牧の環境を整えることはとても大切なことですから、皆さんも仲間で意見を交わしながら親子を観察し、より良い管理法を見つけ出していってほしいと思います。
子馬を守るために重要なこと・・・幾つかあげてみましたがいかがでいたでしょうか。馬の分娩とは関係ないところでも、情報共有とチームワークが必要な場面がいろいろあると思います。自らが日常生活できちんとした生活をすることが、馬の管理をする上で自然と身につく・・・というところをあると思いますから、今一度自分を見つめ返すのもいいかもしれません。
次回は放牧の様子を書く事になりそうですが・・・どうなりますかね。
最後までお付き合いありがとうございました。