2024/02/13
JRA日高育成牧場です。
2017/08/02
サマーセール
先月は八戸市場、セレクトセール、セレクションセールと馬のセリが続きました。私はセレクト、セレクションを見てきましたが、大変な盛り上がりでしたね。それぞれ前日と当日早朝に事前下見をさせてもらいましたが、仕上げられた若馬の一頭一頭から、それぞれの牧場の意気込み、思いが伝わって来ました。その熱意が購買のお客様にも伝わり、盛況になったのだと思います。
そして今月は下旬にサマーセールが予定されています。酷暑が続く日本列島ですが、北海道も例年になく暑い7月でした。8月の暑さはほどほどにしてもらいたいところですが、それぞれの馬が万全のコンディションで参加できるように願うばかりです。
バスツアーとサマーセミナー
日高育成牧場では、先月から「バスツアー」が始まりました。週2回程度不定期で実施している場内見学イベントです。詳細はHPなどの案内を見てください。日高山脈を望む広大な景色や敷地の中にあるトレーニング施設を見ていただく、親子馬と触れ合う、育成技術を紹介するなどのちょっとした企画を準備してお待ちしております。北海道、日高育成牧場の環境の素晴らしさを肌で感じ取れるチャンスだと思いますので、馬が好きな方、牧場での仕事に少しでも興味のある方は是非お越し下さい。
また、獣医畜産系大学の学生を対象にした「サマーセミナー」も今月下旬に開催予定です。関心の程度にかかわらず、馬関係の仕事をしたい、わずかながら興味があると思っている人向けの馬に関する研修会です。研究室スタッフが中心となって、講義実習などを実施します。毎年感じることですが、10代20代の人と話をすると、こちらも若返った気になりますね・・・いい刺激になります。今からお会いするのが楽しみです。こちらも頑張っていろんなことを教えたいと思っています。研究室からの情報では十数名の大学生が参加予定とのことでした。「へー、そんな研修があったのか・・・面白そうだな」と思った大学生!来年の応募をお待ちしております。
慌てること迷うこと
さて今回のテーマは「慌てること迷うこと」です。日常の生活の中で慌てる場面、迷う場面・・・よくありますよね。あの時ああすれば良かった、こうすれば良かったと後悔することが多々あります。私は馬の診療をするときに、慌てたり迷ったりして失敗したことが何度もありました。馬を取り扱うときには、時に慎重に、時に大胆にやるなど、鋭い判断力が求められます。お世辞にも私はこの判断力に優れていたとは言えず、結果的に失敗してくよくよすることが多かったと思います。では、慌てず迷わず自信を持って行動するためには、どんな心構えがあれば良いのでしょうか・・・。私の話では説得力もないかもしれませんが、今回は分娩に関する話に乗せて、皆さんの迷いを解消するヒントにでもなればという気持ちで、例を挙げなら綴っていきたいと思います。よかったらおつきあいください。
何より十分すぎるほどの準備が大切
それでは分娩の一連の流れの中から幾つか取り上げてお話しましょう。
「もうすぐ生まれるぞ!」・・・分娩となると緊張感が高まります。順調に物事が運べば何も問題はないのですが、とにかく子馬が産まれて立ち上がるまで何が起こるかわかりません。そこで何より大切なこととは・・・もちろん事前の準備がしっかり出来ているかです。「分娩に必要な器材の準備をしっかりやっておけばいいのでは・・・?」と安易に考える方が多いかもしれませんが・・・果たしてそうでしょうか?
馬房の準備と整理整頓
現場ではどうしても気持ちが高まり焦りがでます。仕方のないことです。何より大事なことは、分娩にふさわしい環境が整えられているか、清潔に保たれているか事前によく確認しておくことだと思います。しっかりやってさえいれば、慌てることも迷うこともありません。
難しいことはないです、例えばこんな感じです。
・専用の馬房を用意しているのなら少し余裕をもって早めに移して環境に慣れさせる。
・馬房内の安全を確認して、質のいい寝藁を準備する。
・生まれたての子馬が直接触れる母馬の腹部や乳房はきれいにしておく。
・必要な器材を使いやすいように配置する。
他にもありますが、これらをしっかりやっておけば、分娩が始まって、アクシデントが会った時でも、慌てることも迷うこともなくスムーズに対応できると思います。馬房が汚い、必要な機材の所在も把握していないなどの準備不足は、生まれてきた無防備な子馬に悪影響を及ぼします。咄嗟の行動ができない。とにかく準備は大切ですね。手元に過去の分娩記録はあるともっといいでしょうね。
準備万端と思ったら、分娩馬房の中央で気持ちを落ち着けて母馬と一緒に360度周りを見渡してみましょう。危険なところはないですか?必要なものは見えますか、すぐ取りにいけますか?一連の流れのイメージ・・・掴めていますか?ここで違和感がなければほぼ大丈夫でしょう。母馬の肩でも撫でてあげて、自分の気持ちも落ち着けてください。
正しい知識を身につけているか
ドラマの中で動物の出産シーンを見たことある方・・・どのくらいいますかね?
例えば、
「足が見えたぞ、引っ張るから皆手伝ってくれ・・・せーの!」
なんて場面。思い浮かべる人も多いのではないでしょうか?学生の頃の私もその一人でした。ところで、「足を引っ張る」ことって正しいことでしょうか?引っ張るとしてもどのタイミングで?そんな疑問を持ったこと・・・皆さんはありませんか?
分娩に関する考え方は諸説有りますが、ここでは私なりの考え方で、陣痛、破水、娩出、後産、と順を追って大切だと思うことを確認することにします。
陣痛。人ではベッドの上でじっと痛みに耐えている・・・イメージでしょうか。馬の場合はどちらかというと、じっとしていない感じですね。馬房の中をくるくる回る、立つ、座る、横になる・・・当たり前のことだという知識がないと、どうしても気になります。まあ、ひどく暴れる、いつもと違うなど異常を感じたときは獣医さんに相談も必要ですが、ここは慌てず迷わず落ち着いて見守るべき場面です。そもそも動物は自然分娩が基本です。サラブレッドだからといって特別な哺乳動物ではありません。
そうそう、尾は包帯などで邪魔にならないように巻いておきましょう。これは衛生面からも大切なことですので。意外に長いですよ・・・馬の尾は。
破水。個体差もありますが、羊水の色は黄色から薄い茶色です。この時携帯・スマホでその時に集まる予定の人に連絡することが大切です。いきなり変なこと言うな・・・なんて思われたでしょうか。人を呼ぶため?・・・それもありますが、破水時刻の記録になるんです。もし、難産になって獣医さんを呼んだとき、「破水は何時だった?」と必ず聞かれるでしょう。慌てずに携帯を見ることです。
しばらくすると、子馬は子宮の中で姿勢を整えて、可愛い2本の前足を出します。足が膜に包まれているので「足胞(そくほう)」と呼ぶこともあります。この時鼻先も見えるので、その3つが揃えば正常です。ここも正常か異常か判断する大事な場面ですので、出来る範囲で落ち着いて観察しましょう。
娩出。母馬はこの時も立ったり座ったりを繰り返します。子馬は前足、鼻先を揃えて少しずつ出てきます。個体差や状況にもよるので、時間がかかるものもいるし、そうでないのもいます。母馬が一番苦しそうにするのは、幅の広い胸の部分が通過する時です。出そうでなかなか出ない。でも通過前はへその緒でお母さんとしっかりつながっているはずなので、過剰に心配することはないです。冒頭で引っ張ることが正しいのか?と書きましたが、実際に人の介助が必要なのはこの段階です。そもそも分娩は自然に任せるのが正解(諸説有り)です。しかし何らかの理由で、胸の部分を通過できないと判断した時、引っ張る必要があります。そのタイミング、引く方向など獣医さんなどの指導者、経験者の指示に従って実施します。無理に引くと子宮を痛める可能性があります。次の出産に差し支えることもあるので引っ張るのは最低限に抑えて馬に任せたいところです。
はらはらすることばかり書きました。繰り返しになりますが、通して自然に任せることが多いことに気がつかれたでしょか?慌てず迷うことなく、優しく見守るのが一番いいのです。
後産。娩出後はしばらくへその緒がつながっています。人では縛って切るイメージですが、ここも慌てないでください。触って血液の流れを感じなくなるまでそうとしておいて、時期が来れば自然と子馬側の根元から切れます。子馬が出ると子宮は縮まるので、中に残された胎盤がまもなく排出されるでしょう。これを後産といいます。痛みを感じたり、なかなか出なかったりすることもあるので、ここも見守ることに徹して、遅いようなら獣医さんに相談して対処しましょう。
あっという間に後産まで書いて、続きは次回となります。毎度のことながら文章だけでは伝えるのは難しいですね。慌てがち迷いがちなこと・・わずかながら伝わったでしょうか。これを読んで、なるほどと思う人もいれば、それは違うと思うけど・・・という人もいると思います。納得と疑問の繰り返し。いいきっかけにしてたくさん勉強してください。とにかく準備は早めにしっかりと、必要な知識をしっかりと、慌てず迷わず・・・です。分娩に限らず、様々なことに共通するお話として伝われば・・・。次回は親子の対面、起立、放牧という展開になりますが、どうなることやら・・・。
今回もお付き合いありがとうございました。