2024/02/13
JRA日高育成牧場です。
2017/07/04
夏のセリのシーズン到来です
今月は行事が沢山。去る7月4日には八戸市場が開催されましたが、2週目は胆振で実施されるセレクトセールと生産地における馬の感染症予防などに関するシンポジウムが日高で開催予定です。そして、3週目は日高でセレクションセールと、1歳馬を中心としたセリなどで盛り上がる月です。
また、6月17日から始まった函館競馬も盛り上がっているようですね。日高育成牧場出身の育成馬たちも函館競馬初日から活躍している様子。夏競馬の北海道シリーズは、このあと9月上旬まで函館、札幌と続いていきますが、今後の新馬、2歳戦が楽しみです。競馬はやはり生で見るのが一番です。都合のつく方は是非足を運んでください!
子馬たちもすくすくと育っています
日高育成牧場で生まれた6頭の子馬たちですが、60kg前後で生まれた体重も120~180kgとなり順調に大きくなっているようです。また、妊娠馬ですが、お腹の中での胎子の発育状況もそれぞれ順調です。今後も定期的に検査を行いながら、注意深く経過を観察していく予定です。研究スタッフは、それぞれの研究業務に加えて、学校教育に関するサポート業務が増えてきました。道内には北海道大、酪農学園大、帯広畜産大など幾つかの獣医畜産系大学があります。中でも日高育成牧場から最も近い帯広畜産大学は、特に出向くことが多く、馬に関する講義や実習を行っています。また馬に関する勉強したい学生や卒業論文のための実験や調査をしたい学生が出向いてくる場合も多く、学生の指導をしています。ここ最近は天候も安定して過ごしやすい気候となっているので、良い環境の中でいろいろな知識や技術を習得して欲しいと思います。
身近なことから気配りを
今回のテーマは「気配り」としてみました。前回は子宮の中で頑張る卵のお話をしたので、引き続き、その卵が成長して生まれてくる直前までのことについて書いてみたいと思います。
母馬に安心して牧場で過ごしてもらうためには、私たちがそれ相応の気配りしてあげないといけません。また母馬だけでなく、周囲への気配りも大切です。今回のお話を機会にして、人に対しても動物に対しても気配りが大切だと思っていただけば幸いです。そう偉そうに言う私はというと、実は年齢を重ねている割には全然気配りのできない人間なんです。恥ずかしい・・・。そう言いう人でも、やさしい気持ちを持つことはできるし、ちょっとした行動が小さな気配りに自然となっていって、十分とは言えないまでも、少しは気配りができるようになったりするものです。良かったらおつきあいください。
子馬が生まれてくる季節は冬から春、真夜中か早朝です。白い息をはきながら、真っ暗な中を足早に分娩馬房に向かうと、写真のような母馬を目前にするでしょう。あと1時間もしないうちに出産が始まりそう・・・そんな感じに見えませんか?さて、そんな出産前の彼女に私たちができる気配りとは・・・なんでしょうか?幾つか的を絞って書いてみたいと思います。
子馬はお母さんのお腹の中で長い時間をかけて少しずつ大きくなっていきます。そして出産直前には50キロ前後まで成長します。子馬を囲む羊水などの重さもあるので、推定で100キロ近い荷物をお腹にぶら下げている感じになるようです。想像できないですよね。したがって、お母さんは相当な体力が必要になります。そして分娩の1ヶ月くらい前には、さすがに苦しいのか、放牧地で駆け回ることなく、あまり動かなくなります。ここで心配になるのが運動不足です。一説には難産を招く要因になると言われています。そこで私たちができることは・・・?ウォーキングマシンなどを利用してストレスにならない程度に歩かせることです。余裕があれば、毎日は無理でも、馬のペースに合わせてコミュニケーションを取りながら引くのもいいかもしれません。スムーズな出産を促すための一手間ですが、安産のための気配りとも言えるでしょう。
感染症にかからないために
感染症は人にとっても動物にとっても怖いものですが、繁殖牝馬で最も注意したいのは、やはり流産を引き起こす細菌やウイルスです。馬伝染性子宮炎、馬鼻肺炎などの病気の名前を聞いたことがある人もいるかもしれません。これらを防ぐために、あらゆる対策を立てて注意する必要がありますね。そう言うと、ものすごく大変な準備と労力がいるのではないかと考えてしまいますが、決してそんなことはありません。とにかく清潔な環境を維持することを考えればいいのです。例えば、敷き料を、あなたの身につけている服を、厩舎を出入りする時の長靴を常に清潔に保つ。これだけでも大きく違ってきます。普段の自分を振り返ってみましょう。意外に疎かになっていませんか?そんな身近で簡単にできることをしっかりやって、その上で必要な消毒、予防注射などを計画的にやればいいのです。効率的に対策を実施するために、十分に知識を持つ人や獣医師などに相談しながら方法を考えることも大切ですね。清潔に保つことが母馬に安心を与える・・・これも気配りといえるのではないでしょうか。
分娩監視で体調を崩さないために
出産予定日が近づいて、そろそろ生まれてくるかなという時期になると、人も24時間体制で構えることになります。以前は当番を決めて実施する重労働、気力体力の勝負でしたが、最近では乳汁を利用して分娩を予想するなど、科学的な技術も進んできました。監視モニタなどのシステムもいろいろ工夫されているようです。詳細に述べると長くなるのでここでは控えますが、先輩や獣医に聞くなどして積極的に勉強してください。まだまだ発展途上の分野ですので、こんな方法はどうだろう?自分がどんなことができるだろう?など、これからいろいろ考えていくと面白いでしょう。忙しい時期こそ、寝不足でイライラすると余裕もなくなるし、母馬への気配りもできなくなります。人間の体調管理は気配りの余裕をつくるために大切なことだと私は思います。
コンディションチェックはしっかりと
牧場の規模にもよると思いますが、放牧するとき、あなたは毎日同じ母馬を引いていますか?それとも、ランダムに担当を決めずに引いているでしょうか?もし余裕があるなら、数日おきに引く馬を入れ替えて、後ろから横から人が引いている馬の様子をチェックすることをお勧めしたいです。いつもと比べて元気があるかないか、歩き方に異常はないか、怪我はしていないか、蹄の状態はどうか・・・いろいろなチェックが出来ると思います。また、週に1度は体重もチェックをするべきでしょう。体重が測れないなら、背中やお尻、肋骨が浮き出ているかそうでないか、皮膚をつまんでむくみをチェックするなど、毎日行うことでその馬の状態が把握できると思います。そして必要に応じで餌の配合も変えるべきですよね。痩せすぎ太り過ぎはどちらもよくありません。更には、馬の年齢が高いほど注意深く観察していくべきでしょう。
体調管理は最も基本的な気配りです。分娩までの記録台帳を作って日記のように書き綴るのもいい方法です。時に読み返して、自分がこうしようと思う行動の全てが、人や馬への気配りに自然となっていくことでしょう。
できることからはじめよう
ほんの一部しか書けずに申し訳ありません。まだまだいろいろあると思いますが、ここに書き出しただけでも、今までやっていなかったこと、やるべきと分かっていてもおろそかにしていたこと・・・あったと思います。これから馬を取り扱う初心者の方も、まずは基本的なことを身につけて、馬にも人にも気配りのできる人になって欲しいと思います。次回は出産について書くことになりそうですね・・・。
今回もお付き合いありがとうございました。