2024/10/03
JRA日高育成牧場です。
2019/09/05
サマーセール サマーセミナー 北見にて
秋風が吹きはじめ、浦河の夏も終わりました。つい最近まで、暑い暑いと騒いでいたのが嘘のようです。このまま寒くなっていくのでしょうか・・・。
さて市場。先月下旬になりますが、サマーセールが予定どおり開催されました。私も4日間通して行ってきました。昨年に引き続き売却率、売り上げともに好調だったようです。JRAも当初の予定の頭数を購買し、残りは新設のセプテンバーセール等で揃える予定です。この原稿がアップされる頃には馴致も始まっているはず・・・。本格的な育成のシーズンに突入したという感じです。
また、毎年恒例の獣医系大学の学生向けサマーセミナーも先月末に実施しました。今年も全国から選抜された6名の学生が来場し、私も講義などを行いました。実習は繁殖牝馬、子馬の収放牧、手入れ、厩舎作業、乗馬体験など、馬取扱いの皆さんの仕事と共通するところが多い内容のものでした。大学では馬に関する講義や実習はほとんどないことから、私たちが頑張っていろいろなことを教えていかなければ・・・と感じています。
そして、例年9月に開催される北海道獣医師会の地区学会ですが、今年は8月28,29日の日程でオホーツクの北見での開催でした。オリンピックなどですっかり有名になったカーリング、そして焼肉、ハッカ、帆立などが美味しい町ですね。帯広の学生の頃に何度か訪れて以来なので、本当に久しぶりでした。あの頃はまだ、ばんえい競馬が旭川、岩見沢、帯広、北見の4場で行われていましたから、北見も馬とのつながりは深い土地柄です。学会では馬に関する発表も盛りだくさんでした。また、北見工業大学が会場だったため、今話題のAI・人工知能と医療に関係したシンポジウムも行われ好評でした。内容については、学会に参加した皆さん馴染みの獣医さんにお話をうかがってみてくださいね。得する情報もあるかもしれませんよ。
子馬たちですが、3回に分けた最後の離乳もスムーズに行われ、これといったトラブルもなく、親子それぞれで落ち着いて過ごしているようです。なお、子馬たちは今月中旬には別の放牧地に移動させて様子を見る予定です。繁殖牝馬も来年の出産に向けてのコンディション作りに入り、1歳組は育成厩舎にすっかり溶け込んでセール購買組とともに初期馴致の真最中・・・。環境が変わる中で、今後いろいろなことがあると思いますが、どの馬も寒さに負けず頑張ってほしいと思います。
今回は、創傷について少し考えてみたいと思います。
顔、手、体、肢、蹄・・・馬に限らず、動物は様々な場所を怪我します。多くの場合、血を流すため、中には「血を見るのが苦手」という人もいるかもしれません。現場で慌てたり、あせったりすることもあるかも・・・。馬の怪我を見つけたら、すぐに獣医師に見せて治療を受け、指示に従ってその後のケアをするのが鉄則であり、決して勝手な判断で処置をしてはいけません。しかし漫然と頼りきるのでは進歩もありませんから、自分でも
直るまで時間がかかるひどい怪我なのか
見た目はひどそうだが、適切に処置することによって早く治る怪我なのか
など、ある程度の予測をすることは大切です。
毎度のことですが、私独自の見解で語ることを許していただくこととして、以下参考にしてもらえればと思います。
キズを観察するポイントとは
ランダムに解説していくことにしましょう。
・まずはキズの場所に注目
ポイントは皮膚がよく動く、伸び縮みする場所かどうかです。例えば前肢なら球節、腕節などの関節が当てはまります。馬房の中を少し歩くだけでも、傷口が刺激を受ける部分ですね。早く治すには、第一にキズの部分が速やかにつくように動かさないことが大切になりますが、関節はどうしても治りにくいです。その関節と比較すると管部や前腕では、動いてもあまり伸び縮みしないので早く治る傾向にあります。まずはどの部分にキズがあるのかをチェックしましょう。
・出血の多さで勝手な判断をしない
皆さんご存知のとおり、体中の血管には動脈と静脈があり、それらは皮膚にも当然あります。キズの部分にたまたま動脈があって切れると、見た目よりも出血が多くなることがありますが、浅く狭いキズなら以外に問題なく治ることが多いです。逆に出血が少ない場合ですが、傷口が小さくて、外に血が出てこないことがあるので注意が必要です。皮膚の下の組織内にその血が溜まって、後で面倒なことになる場合もあります。なので、決して外見の出血量だけで状態を判断してはいけません。
・キズの深さを知る
私たちの生活の中でも、怪我をした時に
「深そうだね、病院行って縫ったほうがいいんじゃない?」
なんて会話すること・・あると思います。馬の場合も一緒で、深いキズ、浅いキズ・・・判断の仕方は似ていると思います。皮膚の表面だけのキズか、皮膚の下の組織まで達するキズか、それを通り越して骨まで見えるキズか・・・判断が難しい場面も多いと思うので、獣医師に見てもらいながら観察して覚えるのがいいと思います。
・見える部分だけが怪我ではない
先ほどの出血のところと関連がありますが、衝撃が大きいわりにキズが小さいばあいがあります。外から見ると1~2cmくらいの小さなキズがあり、その周囲を注意して触って違和感(例えば、水を含んだゴム風船を触ったような弾力のある感触、泡を触るような感触)があるときは要注意です。何らかの強い衝撃で内部の組織まで損傷を負っている可能性が高いです。このような時は、単にキズの表面に消毒薬を塗って包帯するだけでは治らず、場合によっては穴を開けて抜き通しするなどして、洗浄が必要なケースかもしれません。傷のある部分は、人でも馬でも触られると痛いのは共通なこと・・・蹴られないように十分注意してキズの周囲の様子を詳細に観察しましょう。獣医師に治療してもらったあとは、その後に気をつけなければならないケアの方法をよく聞いておきましょう。
・キズが広がる向きをよく見る
向き、と言われてもなかなかピンと来ないかもしれませんね。先ほど、たとえ1~2cmの小さなキズであっても損傷は周囲に及ぶといいましたが、その損傷が傷口を中心として上下左右どの方向に広がっているかで、治るスピードが変わってくるという話です。キズができると、それを修復しようとする体の反応が起こります。皆さんがよく聞く血液の中の成分で白血球がありますよね。細菌などの有害物質と戦うやつです。その後は血小板の働きなどで傷口を修復しようとするわけですが、その時、全力で戦った白血球の残骸が膿となって外に排出されます。この膿は速やかに外に排出されるべきで、もし傷口が下向きに開いていれば、重力も手伝って自然と外に出ますが、上向きだと出るに出られず、ポケットのように残骸が溜まりやすくなるため修復が遅れます。獣医師はその状況を判断し、下向きに膿が排出されるように処置をするでしょうから、よく観察してみましょう。
・汚れ具合はどうか
例えば、障害飛越などで馬がバランスを崩し、腕節の部分を強打する場合がありますよね。多くの場合、傷口から砂などの異物が混入するため、修復に時間がかかることが多いです。キズは綺麗なほど治りやすい傾向があり、例えば刃物のようなものでスパッと切れたようなキズは、汚れていなければ治りは早いです。傷口からの異物の混入がないかよく観察しましょう。
当てはまる条件が重なるほど
いろいろ並べてみましたが、上手く伝わったでしょうか?少し難しかったかな?当てはまる項目が重なるほど治りが悪くなる可能性が高いと考えてください。たとえば、
「傷口は小さいが、中に異物が溜まっているようで、損傷も大きく、傷口が上向きだから、治るのに少し時間がかかるかな・・・」なんていう風にね。
事前に知識として持っておくと、見てもらうときに、伝えるべきことが的確になってきます。獣医さんの処置を見ながら、どうしてそうしているのかの意味を理解しやすくなります。そしてあなたが適切なケアをすることで、愛馬の怪我も早く治るかもしれませんね・・・。
今回もお付き合いありがとうございました。