2024/02/01
優駿のふるさとは未来へ 第4弾
2023/07/10
7月に入ってようやく夏らしくなってきた浦河ですが、6月とは一転して、降雨に見舞われる日が散見されています。一方、雨の日は気温が上がらないことから、馬たちにとっては吸血昆虫に悩まされることもなく、ストレスがないようにも見受けられます。
浦河町の乗馬愛好家の中では、浦河に夏の訪れを告げるイベントとして知られている「浦河町町民乗馬大会」が6月25日に日高育成牧場において開催されました(写真1)。当日は老若男女問わず多くの乗馬愛好家の方々が参加され、馬とともに「楽しむ」ということを趣旨に基づいて、障害飛越競技や部班競技に臨みました。参加人馬への励ましの声援や障害落下時の落胆の声など、ローカル大会ならではの楽しみ方ができたように感じました。
写真1. 高校生を背に障害を飛越する元JRAオープン馬のトラストワン号
さて、今回は前々回および前回の記事(https://bokujob.com/blog/article/2023/jra-97.html)の続編として、その年に出産していない非分娩馬(空胎馬)に泌乳を誘発し、乳母として導入する手法について概説いたします。
前回のブログでは、乳母として白羽の矢が立った功労繁殖牝馬に対して、ホルモン処置を実施することによって、処置開始から11日目に1.5Lの乳量を得ることが可能となり、乳母として子馬に導入する条件を満たすことができたことをお伝えしました。しかしながら、乳母として子馬に導入する乳量に関する条件は満たしたものの、最も重要な過程である「乳母付け」をクリアしなければ、全く意味を成しません。
写真2.授乳を許容せず攻撃する場合に、馬房内の簡易枠場内に乳母を拘束している様子
「乳母付け」とは「母馬を失った子馬」と「乳母」を対面させ、乳母に実子のように授乳を許容させることです。過去に当場において、乳母付けを実施した際には、一般的に推奨されている「分娩時の刺激を擬似的に与える子宮頚管刺激」「乳母の臭いを子馬につける」「メントールのような軟膏を乳母の鼻に塗って嗅覚を麻痺させる」などの方法を試みましたが、最終的には、放牧地において他の母馬から子馬を守ったことが決め手となり、授乳を許容するのに最大で6日間を要したこともありました。乳母が授乳を許容しない間は、乳母が子馬に対して「噛む」「蹴る」というような攻撃を行うので、写真2のように馬房内に簡易の枠場を作って、その中に乳母を拘束しなければならず、乳母にとって多大なストレスとなりました。
写真3.「PGF2α」投与後に認められた発汗および不穏な様子
今回は、スムーズな乳母付けを遂行するために、海外において母性惹起に有用であることが報告されている「PGF2α」を乳母に投与する方法を実践しました。このPGF2αは、馬において黄体を退行させる薬剤として使用されていますが、乳母付けのために使用するのは、分娩時に陣痛(子宮収縮)を誘発する内因性のPGF2αが分泌されており、これが母性を惹起すると考えられているからです。
写真4.乳母と子馬の初対面の様子
この方法は、最初にPGF2αを黄体退行で使用する容量の3~4倍量を乳母に筋肉内投与します。投与から約10分後に薬効である発汗および不穏な様子を確認(写真3)してから、子馬と乳母を馬房内で対面(写真4)させます。
写真5.乳母が子馬の匂いを嗅ぎ、舐めるという母性行動を示した様子
写真6.乳房からの吸乳を始めた様子
乳母が子馬の匂いを嗅ぎ、舐めるという母性行動(写真5)を確認した後に、子馬を乳母の側面に移動させ、乳房からの吸乳(写真6)を促します。上記の方法によって、容易に乳母付けに成功しました。今回の乳母付けに要した時間は30分程度でした。
写真7.乳母付け翌日における本当の親子のような様子
「PGF2αを乳母に投与後の発汗と不穏な様子」、および「乳母と子馬の初対面から授乳を許容するまでの様子」に関する動画は、以下のリンクからご覧いただけます。
PGF2α投与後 ⇒ https://youtu.be/uW8NZTPBdpA
乳母付けの様子 ⇒ https://youtu.be/8zRjfr_hMU0
この方法は、乳母付けのみならず、育子拒否した母馬に対しても改善効果を認めた例も報告されています。なお、乳母付けの際に処置を希望される場合には、前述のとおり、高用量のPGF2αを投与するため、必ず獣医師にご相談ください。
次回のブログでは、その後の乳母と子馬の様子について紹介いたします。