1. ホーム
  2. イベントに参加する
  3. 牧場で働こう見学会
  4. 2019 見学会レポート(関東)

2019 見学会レポート(関東)

2019 見学会レポート(関東)

春の恒例行事となっている「牧場で働こう見学会2019in関東」が3月9日(土)に開催された。秋田や長野、愛知県など遠方からの参加者もあり、バス2台に分乗しての大盛況。予定通り午前8時に東京駅近くのターミナルを出発し、最初の目的地・ビッグレッドファーム鉾田トレーニングセンターへと向かった。車内ではスケジュールや注意事項などのガイダンスの後、参加者のニーズを求める意味も込めて、自己紹介の場も設けられた。「子どもの頃から馬が好き」「馬が学校にいるので関心がある」「今は別の仕事をしているけれど、馬の仕事に魅力を感じている」など、簡単な一言からでも年齢や立場が違う多彩な参加者が集い、それぞれの思いを胸にこの日を迎えたことが伝わってきた。道中は牧場関連を紹介するビデオが上映され、BOKUJOB見学会は静かな熱気を帯びたように感じられた。この日は春の陽気に恵まれた絶好の牧場日和。少しの緊張と大きな期待のもと、見学会のスタートとなった。

ビッグレッドファーム
鉾田トレーニングセンター

最初の訪問地、茨城県鉾田市にあるビッグレッドファーム鉾田トレーニングセンター(以下BRF鉾田)に到着したのは午前10時20分。ここは2007年の開場以来ビッグレッドファーム(本場:北海道新冠町)の本州での調教の拠点となっている育成場で、育成馬には中山記念(GII)を連覇したウインブライトも名を連ねている。この日は蛯名マネージャー、附田場長と9名のスタッフが出迎えてくれた。まず、附田場長から見学に際して「大声を出さない」「走らない」「馬は慣れないことには臆病」「必要以上に近づかない」「馬には触れない」「馬の後ろには絶対に立たない。蹴られると命を落とすこともあり、大変危険」などの注意事項が伝えられた。こういった説明は、ワイヤレスガイドによって参加者各自のイヤホンへと流れる仕組みになっている。


屋根付き坂路で附田場長の説明を聞く

一通りの説明の後、屋根付き坂路での調教見学が行われた。北海道では防寒対策のために屋根付きにするそうだが、ここは坂路の砂が雨などで流出するのを防止するためとのこと。普段は調教が終わっている時間だが、この見学会のために最後の組を残しておいてくれた。メンバーはマイネルカレッツァ(4勝)、ウインインスパイア(障害OP)、ウインクリムゾン(1勝)、コスモヨハネ(3勝)、ヴォカツィオーネ(3勝)、コスモドーム(古馬OP)。坂路は600mで高低差は9%。砂は深く、馬たちはこの坂路を最低3本インターバル方式で調教されている。坂路を駆け上がった後はダグ(速歩)でスタート地点まで戻り、再び坂路を走るということを繰り返すそうだ。15-15と言われる1ハロン(200m)を15秒(馬にとっては8~9割くらいの力、実力によっては全力)の坂路調教は、ダート競馬に換算すると1ハロン13秒から14秒の負荷に相当するとのこと。このようなタイム(現場では“時計”と言われることが多い)は、それぞれの騎乗者が馬に合わせて進めていくそうだ。調教の他、経験が浅い3歳馬を、経験豊富な古馬が誘導するような形で坂路入りするシーンも見学でき、育成場ならではの工夫を知る有意義な時間となった。

次に、ウォーキングマシンの見学へと移動。現在、BRF鉾田には5基のウォーキングマシンが設置されている。競走馬にとって大切な引き運動(馬を歩かせる運動)を人に代わってやってくれるマシンは、人件費の削減という意味でも大きく役立っており、JRAのトレーニングセンターや他の育成場でも導入されているという。調教を終えた馬たちは約1時間、このマシンの中を歩き続けるそうだ。マシンの中はゴム張りで、馬が暴れても怪我をすることがないよう安全に配慮された構造になっている。使用後は砂やボロ(馬糞)などの汚れを掃除する作業もあるという。そういった説明からも、牧場の仕事にはさまざまな作業があることが伺えた。


現役4勝馬とふれあいの時間

続いて、昨年春に稼働したトレッドミル(ルームランナーのようなもの)の見学へ。最大時速50キロ、傾斜もつけられ、負荷をかけた運動も可能になっている。普段は目にすることがないトレッドミルを熱心に見入る参加者も多数見受けられた。この後、坂路を歩いて実際の砂の感触を体感させていただいたが、その深さと歩きづらさに驚く参加者もいたようだ。12~13cmあるという深い砂は定期的に入れ替えが行われ、調教で使い終わった午後にはスタッフがハロー掛け(専用のトラックでの地ならし)を行うという。坂路を歩いたことで競走馬のトレーニングを身近に感じた見学者も多かったことだろう。サンシャインパドック(庭付きのようなイメージ 珍しい造りとのこと)がある馬房を見学し、ご厚意で見せていただいた4勝馬マイネルネーベルとの記念撮影では多くの見学者が楽しそうな笑顔を見せていた。

その後、ゲストハウスへ移動し質疑応答の場が設けられた。牧場からは、附田場長を筆頭に、3年目の若手、別の牧場での勤務経験もあるベテランスタッフ、北海道から異動して間もない6年目のスタッフの3名が参加してくださった。質疑応答は、昨年好評だった座談会形式で行われ、4班に分かれてグループトークでの実施。「現在60kgですが体重はどれくらいまで大丈夫ですか?」「馬の学校に行くかどうしようか迷っているのですが」「他の動物を扱っていますが、馬も扱えるかどうか不安があります」「トレッドミルでは大きな音が鳴っていたけれど、馬は大丈夫なのですか」など、活発なやりとりが行われ、「民間の育成場なら体重60kgなら軽い方。もっと筋肉をつけても大丈夫」「馬を安心させるために、いきなりトレッドミルに乗せるのではなく、まず見せて音や動きを理解させるなどしている」など、その都度スタッフが丁寧に回答し、笑顔になる見学者の姿も多くみられた。 「牧場勤務は資格がある世界ではありません。年齢性別関係なく働くことができます。年齢が上になると体力的にも厳しくなることがありますが、牧場の仕事をやりたいという気持ちがあるかどうかが大切です。生きものを扱う牧場の仕事は、“この仕事がやりたい”と思う人でないと務まらないけれど、その気持ちがあれば大丈夫」と附田場長。最後にプレゼントの抽選会も行われ、貴重なお宝グッズに沸くひとコマも。12時30分、笑顔で手を振りながら見送るBRF鉾田の皆さんに感謝しつつ、次の目的地への移動となった。

KSトレーニングセンター

車中で昼食を取り、午後2時40分、牛久市にあるKSトレーニングセンターに到着した。こちらはJRA美浦トレーニングセンターから車で10分から15分ほどの距離に位置している。1周800m(外)と300m(内)のダートコース、630mの坂路コース、他に200mの丸馬場、50m×70mの角馬場、最新式のロンギ場を擁する施設で、複数の育成牧場が共同で利用している。6面の馬場は、よりよい結果を導くために各育成場がニーズに合わせて使い分けているそうだ。案内してくださったのは、KSトレーニングセンターを経営する坂本さん。いつくかの会社での勤務経験を有し、脱サラ後、独立して11年目。明るく親しみやすい話し方からも、“育成場の今”を感じることができたのではないだろうか。「牧場というと、休みもなく住むところも不便というイメージがあるかも知れませんが、ここでは福利厚生もありますし、一般の会社に近い勤務体系になってきています。かつては感覚で配合していた飼い葉も、ここではフィードマンと言われる担当者がデータを取りながらより良い結果が出せる配合にしていますよ」という説明からも最新式の育成場の今が伝わって来た。


「天狗山」から広いコースを一望

まず、見学者たちは交代で「天狗山」と呼ばれる調教を見るための建物へ。ここは、普段、調教師や関係者が調教を見ている場所で、広いコースが一望できる高さになっている。待機している間に馬場に入らせていただき、砂の深さやコースの広さを確かめることもできた。真新しいロンギ場(馴致を行う場所)を見学し、坂路のスタート地点へと移動。馬の脚元に配慮したウッドチップが敷かれた通路を歩くのも、貴重な体験となりそうだ。「うちでは人馬の安全のために、1時間置きにコースにハロー掛けをしています。馬の蹄跡に躓いて人馬が怪我をするというリスクを回避するためです。そんな風に安全には十分気を配っているんですよ」とのこと。この日の中山3Rでは育成馬のホープフルサイン(美浦・本間厩舎)が見事優勝。その勝利の陰にあるたくさんの工夫が、坂本さんのお話からも伺うことができた。


完成間近の「ロンギ場」内を見学

「毎年『女性でも大丈夫ですか』という質問がありますが、この仕事は女性にも向いています。馬は言葉を話せない。だから、人間が注意深く見て気づいてあげることが大切なんです。言葉を話せない赤ちゃんに対するような、子育てにも似ていているのではと思います。女性の気づき力はとても高いですね」と坂本さん。最後に、いろいろな職種を経験した坂本さんならではの見学者に向けてのエールとも受け取れるお話があった。「わからないことを先輩に聞けることが大切です。可愛がられる後輩になれ、と僕は思います。一生懸命仕事と向き合えば、性別は関係ありません。挨拶をしっかりして、人とのコミュニケーションが取れる人であって欲しい。馬は話ができないから、馬に携わっている人と人とがコミュニケーションを大事にして、馬と接することが重要です。馬の世界に入るかどうしようか迷っているなら、飛び込んでみる方がいい。やり直しはききます。いろいろな経験をして、競走馬を扱う仕事を選んだのなら、自分自身で、目の前のことを何とかしていこうという気持ちを持って、こうして行こうという提案ができるようにすること。経験は活かせるから、どんどんいろいろ経験を積んだ方がいい。経験を積めば、(仕事人として)上がっていく(成功する)率も高くなります」。人と人との繋がり、信用信頼を大切にして、どれほど本気で取り組んでいるのかを真摯に表し、結果を出してきたという坂本さん。バスが敷地から遠く離れても、真っ直ぐ背筋を伸ばして見送ってくださっていた姿が、それを物語っていたようにも思えた。なお、今回はスケジュールの都合で見学コース外となったが、KSトレーニングセンターには、屋内の洗い場や広い通路などの最新式設備を擁する厩舎や、従業員のプライベートにも心くばりしたバストイレ・簡易キッチン付きの個室寮も完備されている。これらの設備については、BOKUJOB見学会2018in関東の見学会のレポートを参考にしていただければと思う。

松風馬事センター

この日の最後の目的地、美浦村にある松風馬事センターに到着したのは午後3時45分。先に訪れたKSトレーニングセンターからバスで15分ほどの距離にあり、JRA美浦トレーニングセンターの近郊に位置している。到着するとスタッフの石内さんが笑顔で迎えてくださった。中学を出て馬の道に入ったという30歳のベテランスタッフだ。石内さんの案内で施設内の見学へと向かった。洗い場では、まさに、現役競走馬たちが手入れされている最中。「午前中は調教、午後は手入れの時間になっています。今洗い場にいる馬は脚を冷やしているところですね。耳を見ると馬の気持ちがわかりますよ」と石内さん。強風と、見慣れない団体に少々苛立ちを見せる馬もいて、競走馬の繊細さを知る機会にもなった。この時期にはデビュー前の2歳馬も在厩しているそうだ。

松風馬事センターでもウォーキングマシンが活躍中。7基のマシンがあり、見学に訪れた午後の時間帯は、脚がむくみやすい馬や太目な馬たちが利用しているという。この日は風が強いため、音に驚かないよう、耳覆いがついたメンコを着用して運動している姿を見学することができた。その後、馬場見学へと移動。松風馬事センターは1周900mの馬場を保有しているが、これはこの辺りの単独育成場としては最も大きなコースだそうだ。他に、1周400mの坂路、人を乗せないで調教をするための屋内施設ロンギ場、パドックや角馬場など充実した施設を擁している。乗馬経験がないスタッフの場合、牧場にいる乗馬用の馬で技術をあげてから競走馬の調教に騎乗するそうで、そういったことも初心者には安心できる材料となるだろう。


広場を1周する乗馬体験

ここでは、牧場の皆さんから、見学者に向けて乗馬体験という嬉しいサプライズが用意されていた。登場したのは2頭の乗馬用の馬と、1頭のサラブレッドで元競走馬。元競走馬は美浦の久保田貴士厩舎で3勝(うち障害1勝)をあげたボブキャット(9歳セン馬)で、半兄に2014年のマイルチャンピオンシップ(GI)の優勝馬・ダノンシャークがいる血統だ。騎乗のための説明の後、スタッフの介助を受けて乗馬タイムがスタート。ゆっくりと馬場内の広場を引き馬で一周する乗馬体験に、見学者も楽しそうな笑顔を見せ、「思っていたより馬の背中からの目線が高かった」「楽しかった!」「初めて馬に乗った。嬉しかった」「馬の首があたたかかった」という感想が聞かれた。


エサやりタイムも好評

乗馬体験の後、締めくくりとして、馬に乾草(飼料)を与える時間が用意されていた。これもまた、馬と人との繋がりを大切にしている松風馬事センターの社風を感じることができる時間ともいえそうだ。「馬の仕事は人がいないと成り立ちません。松風馬事センターでは見学会や体験会も実施して、初心者も歓迎しています。この仕事は気持ちが大切で、僕自身、馬は特別な存在だと思っています。僕たちがフォローしていきますので、やる気と馬が好きだという気持ちさえあれば初心者でもやっていけます」と石内さん。松風馬事センターのホームページでは、採用や福利厚生などの情報が詳しく発信されており、門戸を広げ、一緒に働く仲間を募りたいという牧場側の気持ちが伝わってくる。見学会に参加した方もそうでない方も、そういった牧場からの発信もぜひ参考にしてもらえればと思う。午後4時半過ぎ、牧場の皆さんの対応に感謝の気持ちを抱きつつ、帰路に就いた。

見学会終了後、サービスエリアでの休憩を挟みながら東京駅へ。参加者の方々には車内でアンケートを記入していただき、牧場関連のDVDなどを鑑賞しながら無事東京駅に到着、解散となりました。今回見学した3場ともに共通していたのは「この仕事をしたいという気持ちが大切」「挨拶や話をきちんと聞くなど、人としての基本ができること」「真面目に仕事に向き合う姿勢の大切さ」でした。今後は、6月1、2日(安田記念)に東京競馬場でBOKUJOBメインフェアが開催されます。多数の牧場が参加するこのフェアは、現場の声を聞くことができる絶好の機会です。たくさんの皆様のご来場、ご参加をお待ちしています。

最後に、見学会にご協力いただいた各牧場の皆さまに厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。

過去のレポート